はるけき きみに  ー 彼方より -
 舟頭が握り飯をむさぼり食う。

 奥にいる娘も無言で食べている。
 つられて紫音と多鶴も手を伸ばした。

 手に飯粒をつけて頬ばる、すると警戒心が薄れていく。
 舟頭がぽつりと、
「菱屋はずっと前から娘をかどわかしていたんだ」
「え?」

「菱屋にやとわれたのは俺だけじゃない。何人も舟頭がいて呼ばれるたびにさらった娘を舟で港の密貿易船に運んでいたんだ」

「でも、その密貿易船は兄たち役人がなんども捜索したのよ。中にそんな娘はいないと言っていたわ」

「船底だよ、船底に押し込めて扉を閉めたら滅多なことではわからない。何しろ大きな船は万一の場合に備えて各船室を分離させているからな。まして船底と言ったら外部の者にはその空間さえわからない。そうやって娘を閉じ込めて出港の機会を狙っているんだ」

 彼は饒舌だった。それも機密に近いことをしゃべっている。
「・・すごく詳しいのねそんなことに」
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