はるけき きみに  ー 彼方より -
「ああ。自分は、その、昔いたんだ、役所に」
「役所にいたって、あなたは役人だったの?」

「そうさ。だがずうっと昔の話だ。若い頃に役人をやめて、それから裏社会をはいずってこの歳になってしまったよ」
 そう言って白髪頭をポンとたたいた。

「役所で、どんな仕事をしていたの」
「いや、仕事という仕事をする前に辞めてしまってね。それから・・」

 と言いかけて黙った。

「・・来たようだ、近くに」
 目だけ動かして気配をうかがうと、
「俺は行くよ。昔は役人だったが、今はそれに追われる身になったんでね」
 左右を見て走り出そうとする。

 だがその行く手を石川と田が遮った。
 マシューが囮になって影を見せ、二人が裏に回ったのだ。

「うごくなっ、大人しくしろ」
「お前は何者だっ」

「誰だと聞かれれば名乗りましょう。瀬田という者ですよ。しがない悪党ですがね」
「せただとっ?」

 二人が詰め寄る。
 近づかれて舟頭が脇道に入った。
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