はるけき きみに  ー 彼方より -
「まてっ」

 追う二人の足がとられる。
 そこは水草が茂る沼地だった。

「くそ、あの野郎!」
 ズブズブ沈みながら怒鳴る。
 
 かたや舟頭は跳ぶように駆けて行く。
 彼は知っていたのだ、ぬかるみと岩が交錯する箇所を、どこに足を乗せればいいのかを。

 マシューの手を借りて這い上がる。

「瀬田、と言ったな奴は」
「うん、だが自分から名乗るとはいったい・・」
「だが本名とは限らないぞ」

 泥だらけの石川に多鶴が映った。
 速足で近づくと、
「お前はどういうつもりだ、わざと囮になるなどと。母上の気持ちを考えてみろ、死ぬほど心配していたんだぞ」

 多鶴は委縮して声も出ない。
「まあ無事だったからよかったじゃないか」
 そんな彼女を、田中がさりげなくかばった。
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