はるけき きみに  ー 彼方より -
背を向けるマシュー
「お嬢様にこんなことをさせるだなんて」
 八重が恐縮した。

「気にしないで。下乃浜では毎日自分の食事を作っていたのよ、だから手慣れたものよ」

 二人は台所に立っていた。

 マシューとサジットが滞在することになったとき、八重は混乱した。
 外国人である二人の食事をどう作ればいいか分からなかったからだ。

 紫音はわらって、
「大丈夫よ、下乃浜にいたときマシューは何でも食べてくれたのよ」

 サジットも好き嫌いはなく、今では四人で食卓を囲むようになっている。

 異人である二人、そして主筋の紫音と共に箸を取る。思いがけないなりゆきに戸惑った。
 だがマシューらは陽気で八重を笑わせてくれる。ときどきオランダ船から大量の食糧をも持ってきてくれる。

 暮らしが大きく変わっていた。
 気持ちがほっと和んでくるときがある。
 そんな生活になっていた。




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