はるけき きみに  ー 彼方より -
「どう言えばいいのか、日本の人は、とくに侍は、こんなふうに自分の内側を明かさないというのか。こんな失敗談はしゃべらないのね。その、なんというのか、沽券(こけん)にかかわるみたいな感じで、むっつりして」

 そこまで言ってはっとした。
 なぜこんなことを言い出したのかとドギマギする。

 目を伏せた紫音に、
「そんな人がいたの? 君に、そんな男性が」

「いいえ、そうじゃなくて。ときどき父の用事で役所から使いがやって来たのよ、その人たちがそんな雰囲気だったから」

 当時、父丹波は役所の幹部だった。
 彼の伝言を受けて部下が伝えに来ることがある。

 彼らは一見不機嫌そうだった。しかめっ面をして用件だけを口にする。
 言い終わると背を向けた。そしてあっという間に帰って行った。

 残された紫音はまるで怒られた気分だった。唖然と見送るしかなかった。

 だがしかし、男たちの心臓は早鐘を打っていた。
 上司の娘である紫音、しかも目を見張る美貌だ。
 めったに見ることが出来ない姿に舞い上がっていた。

 紫音が知る由もない彼らの事情だった。
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