クールなエリートSPは極悪か溺甘か ~買われた新妻は偽りの旦那様の執愛から逃れられない~
翌日。どれだけ気分が重くても仕事を休むわけにはいかない。
デスクに着き、警備計画書に目を通す。
「おう、大慈。今日は早いな。嫁さんから離れ難いっつっていつもギリギリなくせに」
「やめてください。そんなこと言ってませんよ」
「顔に書いてあんだよ。新婚浮かれ野郎が!」
職業柄なのか、この職場はやたら暑苦しい男が多い。
俺に声をかけてきた上司の辻警部には結婚してから揶揄されることが増えた。
…もっとも、凜の寝顔を見ていたらつい家を出る時間を過ぎそうになったことは一度や二度ではない。
それを馬鹿正直に辻さんに言ったことはないのだが。
「…浮かれていられたらまだ良かった」
「なに!? まさか早くも逃げられたのか!」
ぼそりと呟くとすかさず辻さんに突っ込まれ、迂闊だったと嘆いても遅い。
「いえ、そういうわけでは」
「そうかぁ。おまえは見た目も含めて硬い男だからなあ。俺も部下に持ってすぐは、掴みどころのないやつだと苦労したもんだ」
腕を組み合わせ懐かしむような口調で言われ、俺は眉間に皺を寄せる。
「俺ってそんなに分かりづらいですか」
「そりゃあな。長くいりゃあ逆に分かりやすい時もあるが、基本クールだろ、おまえは。それでも結婚の報告を受けてからは、だいぶ柔らかくなったと思ったんだ…そうか、逃げられたか……あまり気を落とすなよ…」
「だから、逃げられてはいないですって」
「なら家出か。どうすんだよ」
辻さんは既婚者だったはずだが、こうも鋭いとは知らなかった。
「…どう……」
「大慈、おまえ仕事はできるのにこっち系は初心者か? いや俺は嬉しいよ、おまえにも人間らしい部分があってさ。だがこのままじゃいけねぇことくらい分かるだろ? そんなに思い詰めるほど好きなら土下座でもなんでもして帰ってきてもらえよ」