The previous night of the world revolution5~R.D.~
「…話が見えないな」

「自分だけが得をしたいと思うのは、神に帰依していないからです。全ての国民が神の教えを守り、神と人を愛するならば、そのような邪念に取り憑かれることはありません」

「…」

…つまり、こういうことか。

確かに、単なる社会主義化では、誰かが欲を出していつか破綻する。

しかし、誰もが唯一神を信じ、信仰心によって心を一つにすれば。

誰も邪な考えなど起こさないし、全ての人が平等であることに満足する。

社会主義の欠点を、信仰心によって補おうとしているのだ。

…この女。

「…本気で、そんなことが出来ると思っているのか?」

「えぇ、思っています」

即答だった。

自分の信じる神を、他人も信じて当たり前、という顔。

何処から来るのだ、その自信は。

「ルティス帝国では、信仰する宗教は自由だ。既に別の宗教を信仰している人々もいる。彼らが『天の光教』を受け入れるとは思えないが」

その通りだ。

ルティス帝国には無宗教の人々の方が多いが、中には熱心なアメリア教徒もいるし、もっと他の少数宗教を信じている者もいる。

そんな人々に、いきなり『天の光教』を押し付けても、受け入れるはずがない。

彼らにとって、『天の光教』は異教なのだから。

それなのに。

「時間をかけて、受け入れてもらうのです。『天の光教』の神の愛に触れれば、誰もが真実に辿り着くはずです」

「…無理矢理改宗させると?」

「無理矢理ではありません。世代を経て、徐々に受け入れてもらえば良いのです。神の教えを説き続ければ、やがて彼らも気づくでしょう。神の懐の大きさに…」

「…」

…あくまで、他宗教を認めるつもりはない、と。

「…そもそも、神という存在を信仰することすら認めない者もいる。彼らについては?」

根っからの現代主義と言うか、リアリストと言うか。

神などいない。自分の目に見えないものは信じない。そういう主義の人間もいる。

そいつらはどうする。無理矢理洗脳でもさせるか?

まぁ、俺もどちらかというとその主義だが。

「嘆かわしいことです。神の愛に触れようとしないばかりか、神の存在すら疑うとは」

そりゃ悪かったな。

生憎、神様とやらに助けてもらったことはなくてね。

「それでも、神の懐は大きく、偉大です。そのような嘆かわしい人々にも、救いの手を差し伸べてくださるでしょう。その者達もいずれ、神を信じぬと言っていた頃の自分を憐れに思い、これからは神の道にのみ生きようと決心する日が来るはずです」

…ふーん。

つまり、俺にもそんな日が来るってか?

神を信じなかったあの頃の俺は、なんて愚かだったんだろう!と後悔する日が?

とても信じられないな。

「…悪いが、俺には全然理解出来ない」

正直だな、オルタンス。

俺もだ。

「それはあなたが貴族であり、帝国騎士団などという穢れた組織に所属しているからです」

「穢れてて悪かったな」

「今すぐにでも、神の教えを学べば、あなたも生まれ変われるでしょう」

「でも、俺は生まれ変わりたくない。生まれ変わっても、またオルタンスに生まれたい」

図々しい奴だなお前は。

ってか、名前を出すな名前を。

生まれ変わってもオルタンスとか、ふざけんな。俺は会いたくないからな。

「…やはり、貴族の人間はいけませんね。旧世代の考え方に染まりきっている…」

「勝手に旧世代にしないでくれ。俺はまだ新世代でいたい」

…実に、噛み合ってない会話だ。
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