The previous night of the world revolution5~R.D.~
これ以上、オルタンスに喋らせていたら、余計噛み合わないことになる。

口を挟むまいと思っていたが…やはり、俺も介入させてもらおう。

「…横から口を挟んで悪いけどな」

「何でしょう?」

「俺も、あんたらの思想を少し齧らせてもらったんだが…」

「そうなんですね。ありがとうございます」

にこりと微笑むルチカ教祖。

悪いが、齧ったと言っても、ルレイアから渡された講演会の音声データを聞いただけだが。

「『天の光教』だとか何とか言って、ご立派な思想掲げるのは結構だが、あんないかにも胡散臭い教義を、何で信じる奴がいると思う?」

「…どういう意味でしょうか」

「何で『天の光教』が人々の信仰を集めてるのか、って聞いてるんだよ」

「それは簡単なことです。人々が、神の教えに共感し、おのれの為すべきことを知ったから…」

「ちげぇよ」

そんな御大層な理由なんかじゃねぇ。

「誰でも良かったんだよ。溺れてるときに助けてくれるものなら、誰でも、何でも良かった。藁にもすがる、って言うだろ」

『天の光教』が、正しくその「藁」だったのだ。

溺れてるときに助けてくれるなら、誰でも良かった。

たまたま投げ掛けられた「藁」が『天の光教』だっただけで。

必ずしも、『天の光教』である必要はなかった。

物理的に貧しくて、精神的にも貧しくなっているところ人々は、丁度、救いを求めていた。

同じ宗教の教えに触れるにも、助けてもらいたいと期待しながら触れるのと。

別に救いを必要としていないときに触れるのとでは、感じ方は違う。

俺達が『天の光教』に少しも心を動かされないのは何故か。

それは、俺達が救いを必要としていないからだ。

俺達は別に、衣食住に困っちゃいない。

物理的には、豊かな生活をさせてもらってる。

精神的には、残念ながらそんなに豊かではない仕事だがな。

だから『天の光教』の教義を聞いて、胡散臭いと感じる。

こんなもの、ただの綺麗事だとしか思わない。

でも、貧しい市民は違う。

彼らは物理的にも精神的にも弱っていて、誰かの救いを求めていた。

そこに、自分達に都合の良い言葉だけを並べる、「藁」が差し伸べられた。

だからそれにすがった。

それだけのことだ。

別に、心から『天の光教』の教義に心打たれた訳じゃない。

自分に都合の良い存在でありさえすれば、何でも良かったのだ。

もし景気が良かった頃に『天の光教』の教えを説いていたとしても、誰も気に留めなかっただろう。

いくら説教されても、俺と同じように、胡散臭いとしか思わなかったはずだ。

教えに共感してるんじゃない。

ただ、すがるものが欲しかっただけ。

そのことを、この女は理解しているのだろうか。
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