エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜
ニゲラ <困惑>
 はぁ、ドキドキした...。香月先生が部屋を出てから数秒後、思わずため息が漏れた。
 回診が終わってすぐにドアがノックされ、そこに立っていたのは...紺のスクラブに白衣を羽織った長身の男性。切れ長の目にスッと通った鼻筋、形の良い薄い唇がバランスよく配置された恐ろしく端正な顔。誰だろう...と思った次の瞬間には、思い当たる人物が頭に浮かび身体が硬直した。
 少し硬いクールな雰囲気も相まって、恐怖心に似たようなものがあったけれど...話してみると勝手に想像していた様な方とは全く違っていた。それに、ふっと少し微笑んだ時の柔らかい表情に...ドキッとした。何故だかわからないけど、動悸が止まらない。
 後になって色んなことが気になり始め、落ち着かない動悸と不思議な気持ちも合わさりその日は深夜まで寝付くことができなかった。

 そして入院三日目の朝、この季節特有の寒暖差で急に冷え込んだこともあり軽い発作が起きてしまった。もちろん結城先生が退院を許可してくれるはずもなく...。結局五日後に無事退院することができた。
 週末は祖父母の家に帰り、久しぶりにおばあちゃんの手料理をたくさん食べて自分のベッドでゆっくり眠って、身体だけでなく心もすっかり元気になった。
 あれ以来香月先生が病室に来られることはなく、職場で再会した時は勝手に少し気まずさがあったけれど、先生は全く気にした様子もなく仕事中はクールな印象。オペに入っている事が多く、関わる機会は少ないので内心ほっとしていた。
 退院の時「これからは僕が薬の調整をするから。ちゃんと定期的に来てね」 と結城先生に言われ、薬もきちんと飲んでいるおかげか最近はすごく調子もよく、仕事は忙しいけれど充実していて私にとって平和な日々がまた戻ってきた。
 
 そんな穏やかな日々が続き、外の空気はすっかり秋らしくなってきたある日。
 休憩から戻った天宮さんは「あっ!ごめん、優茉ちゃん休憩入るのちょっとだけ待ってくれる?」と慌てた様子。
 「どうかしました?」
 「この書類、私が休憩に入る時に院長室に持って行こうと思ってて忘れていたの」
 「私で良ければ届けますよ?」
 「本当?ごめんね!頼まれていた書類だから渡すだけでわかると思うの」
 「じゃあそのまま休憩行ってきますね」と書類を受け取り、私は滅多に行く事のない院長室へと向かった。
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