わたしを「殺した」のは、鬼でした
 命じられたので、わたしが座ったままじっとしていると、しゃきしゃきと背後で音がした。どうやらわたしの髪が切られていると言うのはわかったけれど、どうして千早様がわたしの髪を切っているのだろうか。

 しばらくすると、後ろの髪を切り終えたのか、千早様が前に回り込んでくる。
 少し顔を動かすと、また「動くな」と命じられたので言われるまま顔を正面に固定した。
 千早様のしなやかな指が、わたしの醜い髪に触れている。
 それがものすごく申し訳なくてしょんぼりしていると、わたしの前髪を整えていた千早様が不思議そうな顔をした。

「何故そんな顔をする」
「……わたしの、このように醜い髪に触れていただくのが、申し訳なくて……」

 素直に心の内を吐露すると、千早様がわたしの髪を切る手を止めた。

「どういう意味だ」
「わたしの髪は、醜いのです。赤茶けた色で、あまり艶もありませんし……」
「なるほど、道間は黒を尊ぶからな」

 千早様は一つ頷いて、わたしの髪を切るのを再開する。

「お前がどう思おうと勝手だが、ここではお前の髪を醜いと言うものはいない。それに、艶がないのが嫌なら椿油でもつけていろ」

 簡単に言うけれど、椿油は高級品である。そのようなものをわたしが使わせてもらうのはおかしい。

「俺には女の必要なものはよくわからん。あとで青葉に細々としたものを運ばせておく」
「い、いえ、わたしは……」
「動くなと言っただろう」
「……はい」

 ここでは、千早様の言うことは絶対だ。
 千早様がそうすると言ったことにわたしが口を挟むのは無礼なことである。
 だけど、千早様の気まぐれに生かされている下女のわたしが、このように優しくしてもらってもいいのだろうか。

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