わたしを「殺した」のは、鬼でした
「祝言はいつになさいますか? 早い方がよろしいでしょう」
「まずはユキに確認してからだ」

 青葉はわずかに目を見張った。

(確認だって?)

 鬼の上下関係は明白だ。
 この里では棟梁である千早が絶対であり、彼の決定に否を唱えるものはいない。
 だというのに、千早はユキに彼女の意思を確認しようと言うのだろうか。

「日取りはユキの返事が聞けてから決める」
「さようで、ございますか……」

 変わったな、と青葉は思った。
 千早は優しいが、自分の立場を明確に理解している鬼でもあった。
 少し前の千早であれば、確認、なんて言葉は使わなかっただろう。
 ユキを鬼にした時ですら、相手の意思確認など行わず、強引に連れて帰ってきたはずだ。

 千早の命で、鬼の隠れ里に移り住んだ時ですらそうだ。
 どうしても千早の決定に賛同できなかった一部のものたちは袂を分かちたが、多くの鬼は千早の決定に頭を垂れて従った。

 恭順か、それとも別離か。

 選択は二つで、鬼の頭領に対して「意見する」という選択肢は、多くの鬼たちは持たない。
 一部例外もいるが、牡丹をはじめ、千早によほど近しい鬼たちだけだ。
 だから千早も、他者の意見など滅多に聞かない。

 聞かなかった、はずだった。

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