弟、お試し彼氏になる。
泣いてばかりもいられなかった。
私は、春さんを受け入れた――彼が悠だって知った後に。
自分で決めたことには、自分で責任を取らなきゃいけない。
そうじゃないと、悠一人で背負わせてしまう。
そして、悠は既にそのつもりでいるのだ。
(そんなこと、させちゃいけない)
その決意を確かめるように、後日その報告を受けた。
『ごめんね、報告が遅くなって。結婚した時も、気まずい思いさせちゃったでしょ。いきなり他人が父親になっただけじゃなく、年頃の弟もできて』
「最初はね。お父さんはお母さんに負けず劣らず変わってて面白いし、気にしてないよ。というか、なんで別れたの? 」
『話せば長くなるのよ。それより、絢は最近どう? 』
――好きな人がいます。もう、ずっと前から。
素直にそう言ったら、お母さんは絶対に喜んでくれる。
でも、もし正直に「悠が好き。諦められない」と告白したなら、応援してくれるだろうか。
「好きな人がいる。……上手くいかないかもしれないけど」
その確信は持てず、曖昧さを誤魔化すようにはっきりと答えた。
『そんなの分からないじゃない。それに、絢はそう思ってても』
――相手だって、上手くいく為に頑張ってるかもしれないでしょ。
相手は悠だって、バレてるのかと思った。
お母さんの言うとおり、悠はずっと頑張ってくれてて。
今だって、本当は必要のない努力をしてくれている。
(……だから……)
「私も、上手くいく為に頑張りたい」
――ごめん。今はまだ、言えない。
卑怯かもしれないけど、私も試してみたい。
悠が「弟」であることを、完全には無理でもできる限り忘れて失くしてしまったら。
私たちは、一体どうなる――……?
・・・
(……え)
背中を押すような、それでいて内に籠もるような。
『今日は、春 さんと初めてお話ししてから◯日 記念日です! その後、いかがでしょうか? 今後のサービスの為に、ぜひ現時点でのお気持ちをお聞かせください』
そうだった。
これ、マッチングアプリだったんだ。
その後というか、登録してから起きた展開に気を取られていて、こんなに怪しいアプリのことをすっかり忘れてた。
(お気持ちと言われても……)
うっかり「もう好き」なんて書いたら、こっちが怪しまれそうだ。思うところはあるけど。
でも、「既に実際に会った」ことが運営にバレたらどうなるんだろう。
他の普通のマッチングアプリなら、カップル成立万々歳なんだろうけど、これは何か違う気がする。
(徹底してるのか、本末転倒なのか……)
何にしても、まだアプリ内で繋がっていたい。
そう思って、私は嘘と真実を同時に記した。
――もっと、お話ししたいです。
『……っ、アヤ……!! ……ちゃん。さん……? 』
アンケートの回答を送信してすぐ、音声通話を受信した。
「……さん、だったと思うけど、どっちでも……」
(……大丈夫かな。本気ですぐバレそう)
『……ごめん。興奮して、訳分かんなくなった』
今更な結果論だけど、こういうところは悠だなと思う。
クールなように見えて、わりと前のめり。
別に私はそれを「弟感」なんて思ってないのに、悠にとっては不満だったらしい。
『何なの。嬉しいの、俺だけ? いじけるよ』
「……な、何が」
私の知ってたころの「弟」とは違う声で、そんな仕返しをしてきた。
『マッチング率? ……上がってるみたい。それって、さっき来てたアンケートの結果だって、思ってもいい? 』
――嬉しい。
……期待、するよ。
……っていうか、もうしちゃった。