弟、お試し彼氏になる。
(ついに、恋人いない歴=年齢が、この年になってしまった……)
誕生日、仕事終わり。
今日も嫌な電話を受けて疲れ果てて帰宅し、その後特に予定もなく一人晩酌をしている。
なんて、寂しいバースデイなの。
(いい加減、出逢いの自然発生を諦めないと)
胸キュンから始まる恋も。
このご時世、そんなものは都市伝説だ。
ううん、学生ならまだあるかも。
でも、大人になって時間が経てば経つほど、それは伝説化していく。
(……マッチングアプリかぁ……)
それすら、私にはハードルが高かった。
実際使ってみたことはあるけど、どうしても会うことができなくて。
メッセージのやり取りすらピンと来ず、「会おう」の言葉が来ると怖くなって怒られたりもした。
相手に豹変されると元々低かった温度が急激に冷めるのを感じながら、それも仕方ないなとも思った。
何の為に登録したのか、これまでやり取りを続けたのは何だったのかと言いたくなる気持ちも当然だから。
運命的な出逢いを諦め、婚活にも本腰を入れられないのだから必然的に誕生日に電話してくれる人といえば。
『絢ー? 誕生日おめでと。ねぇねぇ、最近どんな感じ? 』
「どんなもこんなもないけど……」
『もー、絢ったら。奥手なのは分かるけど、そろそろ何か始めたら? 社会人サークルとか、あ、今はマッチングアプリも出逢いとして結構な割合を占めてるって』
(……ついに、親までマッチングアプリを勧めだした……)
よりにもよって、誕生日の夜に最悪。
でも、誕生日「だから」心配で、お祝いも早々に切り上げてそんなこと言ってくるんだろう。
「マッチングアプリ始めたから、心配しないで」
母と娘の会話にしては、かなり変かもしれない。
とはいえ、うちの親にしてみれば、マッチングアプリすら安心材料になるらしい。
「へー、何ていうの? ほら、今っていろいろあるじゃない? 」
「な、何でもいいじゃない、そんなの」
ギクリ。
結局どれも上手くいかず解約したのがバレたみたいに、そんなことまで言い出すとは。
「気になるのよ。いいじゃない、茶化したりしないから、それとも絢ちゃん、ママに嘘吐いてるの? 」
ヤバい。
お母さんが私をちゃん付けで呼んだり、自分のことをわざとらしくママなんて言う時はたいてい信用していないか、怒ってる時だ。
「ビ、Beside Uっていうやつ。まだ始めたばかりでよく分かんないし、何か進展あったら言うから」
「えー、聞いたことないわね。大丈夫? 怪しいのじゃない? 変な人に騙されたりしないでね」
散々けしかけといてよく言う。
文句の一つでも言いたいけど、ここは我慢だ。
更なる追及がくれば、墓穴を掘ってしまう。
「……はぁ……」
渋々大人しく返事をして、通話を終わらせた。
「もう……」
――どうにでもなれ。