弟、お試し彼氏になる。
とはいえ、完全な嘘というわけでもない。
Beside Uの名前が咄嗟に口を突いたのは、もちろん知っていて興味があったからだ。
一人で部屋にいるのも嫌気が差して出掛けたカフェで聞こえてきた、背中合わせの席にいた女の子たちの会話。
『知ってる? 声だけでマッチングするやつ』
『噂で聞いたことあるけど、あれってどこまで本当なの? 自分の声と好みの声質をアンケートで答えたら、相手を紹介してくれたりするって。何にしても、なんか怖くない? 』
『まあ、危なさはどこも大差ないでしょ。確かに声とか喋り方って、好みあるもんなー。試しにやってみようかな。話してみて合わなかったらやめればいいんだし』
――ビサイド・ユー。
ご丁寧に名前まで教えてくれたもんだから、あれからずっと気になっていた。
今まで勇気が出なかったのは、どうしてもちょっと抵抗があるのと、CMもしている大手に比べて知名度がなく、怪しさが増していたのと――それが逆に、好奇心を掻き立てた反動だ。
でも、もう自棄。
誕生日だからといつもより多めに呑んだこともあり、思考能力も低下している。
母からの電話を切ってすぐ、ストアをタップし。
(ほら、これで嘘じゃない)
登録も簡単だった。
個人情報の入力は、一瞬指が止まったけれど。
怖気づかないうちに終わらせ、照れが入らないうちに声を登録して、後はどんな声が好みか設問に答えていくだけ。
優しい人がいいな。
矢継ぎ早に喋られるのは、あんまり得意じゃない。
何よりこのところ落ち込みがちで、まずはただゆっくりお話ししてみたい。
(……なんてね。そんなの、誰も求めてないよね)
私を含め、欲しいのは出逢いなんだ。
だから、この前の人みたいに急ぎたくもなる。
のんびりしていられないのも、重々分かってはいる。
でも、まだ恋を諦めたくない。
だって、最初で最後に好きになったのは――……。
「……あ」
『あなたに96%マッチ♡した方から、メッセージが届いてます! 』
(……何をどうしたら、そんな数字に……。残りの4%は、何が原因だったんだ……)
酔ってはいても、そこは現代を生きてきた現実主義者だ。
アプリに表示された嘘っぽい表現に、ツッコミを入れずにはいられない。
まあでも、これも何かの――無理やりAIに作ってもらった縁だ、一回くらい返信してみるべきか。
というか、その為に登録したんだし。
これを無視したら、次は一体いつになるかも分からないんだし。
(……どれどれ……)
怖いのと、冷やかしが天秤で揺られ、自分のことだというのに興味本位が勝ってメッセージを開く。
『春:こんばんは。よかったら、都合のいい時に話せませんか? 』