弟、お試し彼氏になる。
非・弟
(……え……は……?? )
平日の夜、いったんは持ったドライヤーを置き、代わりにスマホを両手で抱えた。
いつもの受話器のマークのところに「告白♡する」というリンクが増えている。
二度見しなくたって、何だかよく分からない表示は消えてくれない。
そういえば、通知を示すベルのアイコンが赤く「1」と表示されてたなと思い出して、緊張しながら確認する。
『新機能追加のお知らせ 想いを深めたお二人には、告白機能が表示されるようになりました! 』
※1 告白♡する から通話を開始した場合、お相手に告白されたことがお知らせされます。通常の会話は可能となっておりますが、通話終了と同時に告白された側の方へお返事機能が解放! 急速に距離が縮まって、カップル成立になるかも……?
「……な……」
(なに、そのリアリティショーみたいな機能)
悠じゃなくても、そんな感想が出てしまう。
(……で、でも)
※2 お返事機能から「まだ……」を選択された場合はカップル成立とはなりませんが、これまでどおり当アプリを利用して連絡を取り合うことが可能です。
※3 お返事機能から「お断りする」をお相手が選択された場合は今後の連絡はできなくなり、新しいお相手とのマッチングがスタートします。
(は……あぁぁぁぁ……)
訳分からないけど、ガクガクと腰砕けてしまう。
『俺のこと、彼氏として試して』
私たちにはもう、不要な機能とも言える。
だって、あの後こっそり――いや、こっそりしなくてもよかったと思うけど、私たちは連絡先を交換した。
もちろん、悠の電話番号やLINEなんかは登録済で、本当はそれこそ不要だったのはお互いに無視して。
実際は要らないけれど、私たちには必要な儀式を行ったのだ。
(悠はこれ、見たかな……。見たとしても、もう直接架けてくるよね)
つい、条件反射でアプリ開いちゃったけど。
髪、ちゃんと乾かしてからにしよう――……。
『……あ、アヤちゃん。今、大丈夫? 』
「……う、うん。それより、これ……」
『……うん。これはこれで、けじめつけたくて。ここでちゃんと伝えたい』
――好きだよ。
『返事、通話終了してすぐってことはないみたいだから、安心して。聞いておきたいこととかあったら、何でも答えるし。だって、この状態で世間話なんて無理だよね』
この前自己紹介してもらったし、敢えて事前に聞きたいことも特にはない。
それはやっぱり、彼が「悠」だという安心感もある。
同化、しつつあるんだろうか。
ううん、この表現は失礼だ。
ある程度成長して出会ったから、大人になったとはいえまったく分からないわけじゃなかった。
実際、顔を見てすぐ悠だって気づいたし、悠は悠で変わってないところもたくさんあった。
「もっと知りたいとは思うけど、付き合って知れることもあると思うから。それに、気持ちはもう決まってる」
きっと、ただの弟だったとしても、家族ですら知らない顔は多少なりともあるはずだ。
それをそんなふうに思うのは、私が春さんを悠だって、やっと自分のなかで受け容れただけ。
「……好き。一回、切ってもいいかな」
「……え、あ……」
勇気が萎まないうちに。
悠の返事は曖昧だったけど、通話終了を押す。
すると――……。
『春 さんが告白モードを利用しました。お返事を以下からお選びください。お返事期間:あと〇〇:〇〇:〇〇……』
嫌なカウントダウンに惑わされないように、すぐに該当の返事をタップする。
『カップル成立♡ おめでとうございます!! 』
あまりよく見ることなく、「×」で閉じた。
深呼吸したつもりだったけど、あまりに浅すぎて胸が苦しい。
Beside Uを終了して、すぐに別のアプリ――一般的に、みんな使っている方を起動して、「悠」のアイコンを指でなぞった。