弟、お試し彼氏になる。
・・・
迷ったのは、一瞬だった。
「そんな思いつめた顔しないで。覚悟なんて、しなくていいんだよ。……少なくとも、まだ」
その後すぐに、覚悟は決めてきた。
だから今、悠の部屋にいるのに。
「最初のデートで襲ったりしないよ。絢の承諾なしに、そんなことしない。力、抜いて。ね」
襲われてもいいなんて、そんな覚悟をしたんじゃない。
「弟の部屋じゃない」と認識する覚悟だ。
同じかもしれないけれど、意識せずにはいられない。
「話したいこと、いろいろあったからさ。外では言いにくいこともあるだろうし……いちゃいちゃもしたいし? 」
冗談ぽく言ってくれたけど、全部本心で真剣なのも伝わってる。
「ごめん。緊張してるだけ。その……こういうの初めてだから」
「え……。あ、うん。前もそんなこと言ってたよね。でも、それって……つまり、本当に初めてってこと……? 」
まじまじと見つめられて目を伏せる。
(変だよね……。親がマッチングアプリを勧めるくらい浮いた話がないって)
「……ごめ」
「……違うよ! ごめん。嫌とか変だとか言ってるんじゃなくて、その。俺のこと、ずっと好きでいてくれたからかなって嬉しくて」
単純に、私がモテないもいうのもあるけど。
喜んでくれているのに、わざわざ訂正することもない。
それに、ずっと好きで忘れられなかったのも事実だ。
「辛い思いさせたのに、喜ぶなんてごめん。それに、もっと早く動けばよかった」
「ううん。それは、だって……私が、断ったから」
確かに辛かったし、悲しかった。
こんなことになるなら、あの時受け入れたらよかった――そう思い始めると、キリがないけど。
「……俺ね。今のままじゃダメだって、あの時そう思ったんだ。大人になって、内面だけでももっと……絢より大人になって、経済力もつけて、もっと絢に相応しい男にならなきゃって」
「……そんな……」
いけない。
やっぱり、早くきちんと伝えないと。
あの時、ううん、もしかしたら私の方が先に悠を好きになっていたのかもしれない。
それくらい私は、告白されたあの時点で悠のことが大好きだった。
「ううん。絢が気に病むことはないんだよ。ただ、俺にはそうするしか選択肢はなかった。だって、絢より年上になることはできないし、諦めるなんて絶対無理だから」
――俺じゃダメなんだって、認めることができないなら。「今の」俺じゃダメだって、思うしかなかったから。
「今から思うと、もう少し早く行動すればよかった。でも、努力したことは無駄じゃないって思わせてほしい。今の俺が絢にあげられるものは、何一つ減らないから」
どうか、受け取って。
そう囁かれて、とても首なんて振れない。
勿体ないって思いながらも、頷くことで精一杯の私の額に、そっと唇が降りてきた。