弟、お試し彼氏になる。
「……へ、部屋広いね」
額とはいえ、初めての唇の感触にどうしていいか分からない。
話を逸らしたくせに、顔は俯いてとても上げられそうになかった。
「気に入った? ならよかった。絢が来てくれた時の為に、少しでも快適にって思って。……ごめん、怖いよね、俺。そんなことまで計画して」
「……そ、そんなことないけど」
でも、どうしてそこまでしてくれるんだろう。
私の為に、どうして自分を犠牲にしてそこまでのことができるんだろう。
「弟だって……しかも、弟として生まれてきたわけじゃないのに、子どもなのが嫌だったんだ。どうしたらいいんだろって思った時、気づいたんだよね。年、二つしか変わらないじゃんって」
子どもだなんて、一度も思ったことないよ――そう言おうとした唇に、そっと親指が触れた。
「普通に出会ってたら、あってないような差だ。俺たちより年上でも子どもな人はいるし、年齢より大人びた人だっている。実際、アプリで話した時、二歳差なんてそんなに気にならなかったでしょう……? 」
「……うん」
その答えに、泣きそうでくしゃっとした笑顔が胸を締めつける。
「よかった。頑張った甲斐あった。本当に本当に、嬉しい」
「あ……あのね、悠。私があの時素直になれなかったのは、悠が子どもだからじゃないよ。……そう、しなきゃいけないって、あの時は思って……」
きゅっと抱きしめられて、また悠の胸にくっついて。
あの頃は感じられなかった香水の香りが、鼻腔から心臓、脳まで痺れさせるのに、感覚はどんどん研ぎ澄まされていくみたい。
「うん。あの時の絢は、お姉ちゃんでいなくちゃいけなかったんだよね。分かってる……せっかく、俺のことを好きでいてくれたのに、気づかなくてごめん。待たせちゃって本当にごめん。絢は、今までずっと待っててくれたのに……」
「……え、と。それは、その……本当に私、そういうことがなくて。悠が何で私を好きになってくれたのかも、よく分からないというか……」
何だか、かなり話が大きくなっていくような。
いや、元・血の繋がらない姉弟の恋愛なんだ、軽くも簡単にもできないけど。
それにしたって、ちょっと思い詰めてるかも。
それもそうだとは思うけど、でも。
「え、どうして? 絢は、初めて会った時から可愛かったよ。俺とどうにか仲良くなろうってしてくれるのも可愛くて……あれね。いきなりできたお姉さんが、何か想定外に可愛くて、照れてたんだ。最初俺、感じ悪かったよね。ごめん」
「……え、いや、だから……」
何というか、静かなハイテンション。
「ごめん」と「可愛い」が繰り返されて、居たたまれなくて結局、悠の胸に沈む。
「……」
何も言われてない。
顔も、今は見えない。
なのに、ものすごく甘い熱を感じてしまって、目を瞑るしかできない。
「……可愛い」
そんな私に、トドメとなる一言が少し上から囁かれた。