弟、お試し彼氏になる。
にこにこしてる悠は、どちらかというと童顔で可愛いのに、ふと吐息とともに目を細くした彼は大人っぽい。
「可愛い子がお姉ちゃんなんて、ラッキーって。ちょっとは楽しくなるかなって、そんなの思ったのめちゃくちゃ一瞬だった。可愛いから好きになって、好きになってくからますます可愛いくて……そこからはもう地獄。弟だっていったって、それなりに成長した後だったんだから」
その可愛いは、本当に意味分からないけど。
「……そんなこと思ってたの? 」
「そりゃ、オトナになりかけだったから。ラッキー何ちゃら的なのあるかなとかさ。あるにはあったけど、全然ラッキーじゃない。寧ろ拷問だった。……って、あ、そうだよ。絢は本当に無防備すぎて怖かった。あんなの、他の男の前でしたらダメだからね」
(……何かあったっけ……)
私の方がドキドキしてばかりだと思ってたから、身に覚えがない。
悠がそんな気分になっていたこと自体意外すぎて、想像もつかないというか。
「パジャマ姿は、本当に辛かったよね。一緒に住んでるんだから当たり前で仕方ないのに、可愛いんだもん。寝起きも寝る前も……お風呂上がりも。そのたびに、男として意識されてないって目の当たりにして」
「……だから、そんなことなかったの」
意識してませんって、自分に対してアピールしてた。
そうしないと、泣いてしまいそうだったから。
「弟には、そうしないといけなかった? ……そっか。じゃあ、いつかここに泊まってくれる時は、少しはドキドキしてくれるのかな」
――もう既に、心臓が苦しいくらいドキドキしてる。
「……っ、や、ば……。なに、その顔。可愛い……けど、え……っ」
何かを飲み込んだ悠は、これ以上見ていられないというようにぎゅうぎゅう抱きしめてくる。
「……な、っ、意味不明、だし、……悠、目おかしい……!! 」
恋は盲目にも程があるっていうか、ちょっとあり得ないくらいのフィルターかかってて心配になる。
「おかしくないよ。俺、絢見ると自分の好み一般的すぎて嫌になるって実感するのに……無自覚だからな、絢は……。本当に毎日ヒヤヒヤしてたんだよ」
同居してた頃を思い返してみても、そんな場面があったとはどうしても思えない。
(……同居)
弟には、けして使わない表現だ。
すんなりとそんな単語が出てきたってことは、私はもう悠をただの男の人だって思って接してる。
「……悠だって。そんなに優しかったら、誰だって誤解するって思ってた」
「えっ? 何そ……いや。ん……そっか」
確かに、出会った当初は少しそっけなかった。
それが、いつからだろう。
優しくて面倒見がよくて……ほら、それって弟には
言わない。
「じゃあ、約束。誰にも、誤解なんてさせない。……俺は、絢しかいらないよ」
大人になってからの指切りは、昔だってしたことないからこそ、ひどく毒々しい甘さに溢れている気がするのは私が邪推しすぎなのかな。
きっと、約束なんかしなくても、悠は一途でいてくれる。
それなのにそう言葉にしたのは――……。
「……ごめん。ちょっとだけ、許して」
こめかみに、瞼に。
唇が触れて、指切りとは違う絡み方を指先同士がしたのは。
(……鎖、みたい)
繋がった部分を見てぼんやり思った私が、どうかしているに違いなかった。