弟、お試し彼氏になる。
初めてから二回目までの数分が、二回目から三回目の一瞬になるまで。
とても、悠を見ることができなかった。
「……っ、ごめん……! 」
いつの間にか、強張っていながらも力が入らない感覚の身体がずるずるとソファに沈みつつあったのに気づいて、悠が慌てて抱きとめてくれる。
「ごめん……こんな、止まらないなんて……本当にごめん」
「……う、ううん。嫌とかじゃなくて、その、初めてで……ごめ」
耐性がなかった。
どう受け入れたらいいのかよく分からなくて、パニックではないにしろ、意識がどこかに行っちゃってた。
「……ごめん」
「え、い、いや。嬉しかったし……」
「そうじゃないんだ。……初めてじゃない。俺、前にも絢にキスしたことある」
・・・
ああ、そうか。
これは夢だ――……。
混乱する頭で導き出した、あり得なくても一番しっくりする答えを、私は今まで信じていた。
信じようと、していた。
「こんなふうに、お風呂上がり。絢は、リビングのソファでうつらうつらしてた。……そう、なんだ。熟睡してるわけじゃないのも、俺は気づいてて……無理やりキスしてた」
それが正確ではないと、私は知ってる。
『絢。絢って。……起きてよ……頼むから』
――起きて、お願いだから。じゃないと、俺……。
私は、その懇願を無視した。
確かに、うとうとはしていた。
でも、知らなかったというほど眠りに落ちてはいなかったし、逃げられなかったというには悠の唇が触れるまでには時間が経ちすぎていた。
「あんな格好でリビングで寝るなんて、男として見てないにも程があるって、正直腹が立って。気づいたら、ソファに押しつけてキスしてた」
「嘘だ」
『……止めてって言って。嫌だって。弟だからって言われるより、ずっといいよ』
・・・
そう言われたのだって覚えてる。
それなのに、私は無理やりそれを夢にした。
最低なのは私だ。
「嬉しかったのに、逃げたのは私。悠は、そんなこと絶対しなかったよ。……あの時も、優しかった」
「……っ、絢……」
悠の胸に、ぎゅっと顔を押しつける。
あくまでも、どこまでも悠は甘く優しい。
そうやって自分のせいにして、私を流されたことにしてくれようとする。
「……起きてたの? それで、抵抗しなかった……? 」
「うん。……きっと、悠もそれに気づいてた。だから、無理やりじゃないよ」
「……っ」
夢だったものを、今現実にしようとするのは狡いよね。
「……絢は優しすぎるよ。そんな許し方するなんて」
「好きだから。それ以外にないよ。それに、どっちにしても悠が、は……初めてなんだから間違ってない」
でも、あれをファーストキスにできてよかった。
そう思う為の覚悟は、私にもさせてほしいから。