弟、お試し彼氏になる。
姉でいたいなら、最後。
『その後、どう? 好きな人と上手くいってる? 』
母からのメッセージに、すぐは返信できなかった。
・・・
最近は、私のマンション付近で二人で過ごすことも増えた。
『……でも、どう考えても悠の部屋の方が快適ですけど……』
『そんなことないよ。それに、彼女の部屋でいちゃいちゃしてみたいの』
渋る私に拗ねたように言うから、断れるわけない。
断る必要もないけど、どうしたって経済的な差が浮き彫りになる。
(私も頑張らないとなぁ……)
何を何から始めていいか分からないけど、何もかも悠に頼り切っていいわけがない。
狭い部屋で心底嬉しそうにはしゃいでる悠を眺めて、決意だけはしていたところ。
「……あ……」
母から、現状報告を求めるメッセージ。
思わず声が漏れたうえに、悠をチラリと見上げてしまった。
「……あ、あのね」
スマホを見て固まるなんて、何かありましたと言うようなものだ。
不自然だったはずなのに、悠は何も聞かずにふわりと微笑むだけでいてくれた。
その優しさに触れるとやっぱり、もう誰にも嘘は吐きたくないなと思う。
「……私、お母さんに好きな人がいるって言っちゃったんだ。悠の名前は出してないけど、でも」
「紹介してって言われた……? 」
なんとなく察していたのかもしれない。
驚くことなく、安心させるように悠の腕に包まれる。
「私が好きなだけで叶わないかもって言ってたから、まだそこまでは。でも、どうなったか知りたいみたい」
ふと吐息が聞こえた気がして、申し訳ない気持ちになる。
事前に、悠に相談するべきだった。
父にも連絡されてしまったら、悠がどうなるかなんて考えればすぐ分かることなのに。
「ご、ごめんね。勝手に……」
「そうじゃないよ。叶わないって、どうして? 叶うに決まってるし、俺はもう離さないよ。……簡単な気持ちじゃないんだ」
額に口づけられて恐る恐る見上げると、きっと意識してくれたんだろう、ふにゃっと笑ってくれた。
「ごめん。キツイ言い方して。でも、本当にそんな心配いらないから。俺は、何か引き換えにしても絶対に絢だけは失うつもりない。別に、強がりでも何でもなくて、実際そんなの全然大したことじゃないんだ。今のこの幸せがなくなる方が、比べるまでもなくずっと怖い」
私の気持ちを待って、しかも安心させるように先に伝えてくれる。
私だって、それに応えたい。
「悠が嫌じゃなかったら、私、正直に言おうと思う。悠が好きなことも、悠が付き合ってくれたことも」
「……絢」
隠すことじゃない。
隠していられるものじゃない。
もしかしたら嫌な思いをするかもしれないし、悠にもさせてしまうかも。
だから、勝手に返事はできないけど、もし了承を得られるなら、すべて話してしまおうと思ってた。
「嫌なわけないじゃない。付き合ってくれて……って、頼み込んでるの俺の方だよ」
「そ、そんなことない。私だってそう思ってる」
――たとえ、反対されたって構わない。
「……ありがとう。絶対に後悔させない」
そう断言できるほどは強くない。
祝福されるなら、それに越したことはないと思ってしまう。
でも、この先いつかは、誰かに心ないことを言われることになるんだろうから。
その想いが、きっと大事になってくる。