弟、お試し彼氏になる。
「……悠、本当にすごすぎるよ……」
料理に舌鼓を打ち、酔いがほどよく回ってくると本音がポロリと出てしまった。
「こういう俺は嫌い……? 」
「好き」
好きだから困るの。
それが私だけじゃなく、世間一般的にもそうだと思うからもっと困る。
「心配しなくても、絢にしかこんなことしないよ。こんなことっていうか、他には何もしない」
「疑ってるわけじゃないよ」
私、どう返そう。
どうしたら、悠に相応しい彼女になれるんだろう。
「俺は、お人好しでもいい人でもない。可愛いなんて思ってなきゃ言わないし、好きでもないのに何かしてあげたいなんて思わない。自己犠牲とか博愛主義とか、人類みな兄弟みたいな考えからは程遠い人間だよ。絢に軽蔑されたらどうしようって思うくらい」
「……それは、悠が優しいから言えることだよ。本当に最低な人は、そんなこと思わない」
私は、一体何を拗ねてるの。
ううん、これじゃまるで――……。
「絢って、本当可愛いね」
「な、なんでそうなったの……」
考えを読まれたのか、クスクス笑って「これくらいにしとこっか」と私のグラスを取り上げて、残っていたワインを飲み干してしまった。
「え、だって、俺はこう解釈しちゃった」
――他の女には、最低でいて……って。
「違った……? ね、絢……」
「……っ」
いつの間に、こんなに近くにいたの。
私がフリーズしている間にお皿を下げ、私の指先を取りソファへと誘う。
「可愛い。でも、俺はね。絢以外には、最低にもならないかも。どうだっていいからね。……あ、これは最低かな」
そんなことを願ったつもりはなかった。
でも、そんなの言い訳で、似たようなことを欲したのだと思う。
「ううん。絢は最低なんかじゃないよ。嫉妬も不安も当たり前だし。寧ろ、いい子で心配になる。……あ、っと。ちょっと待って」
私の自己嫌悪が本格的に始まるのを止め、悠が寝室へと向かって、何かを持って戻ってきた。
「今日はね、お祝いしたかったんだ。絢の誕生日。……おめでとう、絢」
「え……っ? 」
何かじゃない。
それは、どう見たってプレゼントだった。
でも、どうしてそんな可愛い包みがあるのか、渡してくれようとしているのか思い当たらなくて。
「うん。遅くなってごめん。とっくに過ぎてるけど、受け取ってくれる……? 」
「……ありがと……」
来年でもよかったのに。
何か、次のイベントと一緒でもよかったのに。
でも、あの微妙な誕生日が、春さんと出逢って、それが悠で、付き合うようになって。
それだけで素敵な誕生日だったと思えるようになったのに、一気に最高の誕生日に――……。
「……っ、よかった。嬉しい……受け取ってくれて。じゃあ、それからこっちも」
――ん……!?
「でねでね、あと、これも。あ、待って。まだあるから取ってくる……」
「な、何個あるの……!? 」
嬉々としてもう一度部屋に行こうとする背中を、どうにか捕まえることに成功した。
「だって、ほら……俺さ。今まで大したものあげなかったでしょう? ……弟としてお姉ちゃんにあげるものなんて、いくら考えても分からなかったし……どうしても嫌だったんだ」
「……悠……」
ケーキとか、お菓子とか。
「誕生日なんだから、じっとしてれば」とか。
そういうのは毎年くれたから、全然気にしてなかったのに。
「だから、その分貯めておくことにした。いつか……できるだけ早く、男として絢の誕生日を過ごすんだって思えば楽になれた。頑張れたんだ。ね? 悲しそうな顔しないで。励まされたんだよ」
何もしてない。
私、悠に比べたらあまりに暢気に年を重ねてきた。
「何年分だよって感じでごめん。でも、一日のうちどれか一つでも身につけてもらえたら、最高に嬉しい」
どうにか笑おうとしたけど、それすら下手くそすぎて。
困ったなって笑った悠の笑顔が目に染みて、堪えきれず涙が落ちてしまった。