弟、お試し彼氏になる。
あの後、私が家に帰ったのを待っていたかのようなタイミングで、お父さん――悠のお父さんから連絡があった。
『忙しいのにごめんね。会って話せるかな』
何も悪くなんてないのに謝ってくれるのは、何だか悠と少し似ている。
お父さんと会うのは母以上に久しぶりで、しかも二人だけで過ごすのは初めてじゃないだろうか。
内容が内容だけに、緊張する――そこまではまだ、想定どおりだったけど。
『できれば、悠には内緒で』
送るか送るまいかギリギリまで悩んで、最後の一文として出さずに新しく送信した――邪推かもしれないけど、そんな印象を抱いてモヤモヤする。
(きっと、心配させたくないだけだ)
もしくは、この関係に反対だから私にだけ文句を言いたいとか。そうだ、そうに決まってる。
お父さんはそんな人じゃない――そんなことすら捻じ曲げてしまえるほど、意味不明の不安に押し潰されそうになる。
でも、このままにはしておけない。
悠だって、私の代わりにお母さんに話してくれたんだし。
逃げたくなる気持ちがこれ以上膨らむ前に、勢いをつけてスタンプ一つで返信してしまった。
・・・
「絢ちゃん、久しぶり」
家で出迎えてくれたお父さんは、気まずそうというより寧ろほっとしたというようだった。
「ごめんね、わざわざ来てもらって。どこかで食事でもと思ったんだけど、優美子さんに、端から見て怪しいからやめといた方がいいって言われちゃって」
「そんなこと誰も思わないよ。ヤキモチじゃない? 」
(本当に、なんで離婚したんだろ)
はっきりした理由は、悠も知らないみたいだった。
聞いてみたい気もするけど、今日はその話をしに来たんじゃない。
「あの……悠とのこと、反対するのってどうして? 」
言い淀んだのも最初だけ。
親子の再会を喜ぶには、まずはこの話をつけなくてはいけない。
「……うん。正確に言うとね、絢ちゃんが悠を好きになってくれたのは、喜ばしいことだと思ってるんだよ。……悠にとっては、ね」
「……え……」
単刀直入に切り出した私に苦笑して、お父さんは頷いたのに。
その顔は困惑しながらも微笑んでいて、続いた言葉は想像とは真逆のものだった。
「でも、絢ちゃんの父親としては反対。自分の娘が、男の思いのままに手に入れられるのを見るのは、いい気分じゃないからね。たとえ、それが絢ちゃんにとっても幸せだと言われても……やっぱり反対かな。ここは、すごく悩んだんだ。だから、今になってしまった」
頭が混乱する。
私たちの交際は悠にとってはいいことだけど、私の父親としては受け入れ難い。
意味が分からない。
そりゃ、私だって顔も覚えていない実の父よりも、今目の前にいるお父さんの方がずっと好きだし、父親だ。
でも、それがどうして、私の為に反対ってことになるのか。
「結論から言うとね。僕たちが結婚したことすら、悠の思惑どおりじゃないかと疑ってしまうんだ。悠の行動、思考すべてが絢ちゃんを手に入れる為なんじゃないかって……そんな考えがしっくりきてしまうくらいに」