弟、お試し彼氏になる。
「あ、ねぇ、絢。俺がいない時、ここで手持ち無沙汰だったりする? 」
「そうだね。帰って来るまで、まだちょっとそわそわしちゃうけど。忙しくなりそうなら、私が……」
「だーめ。家事してほしくて呼んでるんじゃないんだから。そうじゃなくて、もし俺がいなくて寂しいならね、俺の友達と会ってみてくれないかなって」
それくらいやっとくのにと思ったのも束の間、わりと衝撃的な発言をされて、思考が停止した。
「そう、俺にも友人はいるの。ま、めちゃくちゃ少ないけどね。このへんに住んでるんだけど……あ、友達は男だけど、会ってほしいのはその奥さん。結婚してこっちに来て、まだ友達いないから話し相手になってくれたらって頼まれてたんだ。奥さん、結構人見知りらしくて、絢は誰とでも仲良くなれそうだから、もしよかったら」
珍しいというか、予想外の展開だなと思ってたら、そういうことか。
「私は大丈夫だけど……彼女の方は私でいいのかな」
「絢を嫌いになる人なんていないよ。あいつ、すっごい家に住んでるから、ルームツアーだけでも面白いと思うよ。あと、最近は奥さんと赤ちゃんの話題ばっかり。あ、子ども苦手じゃない? 」
私は平気だけど、赤ちゃんの方が私を苦手だったらどうしよう。
「大丈夫だよ。それに、たまには同世代の女性同士で話したいんじゃないかな。もちろん、最初は二人で遊びに行こう。仲良くなれたら、二人で会えばいいよ」
「うん……それなら安心かな」
「よかった。無理そうなら、いつでもキャンセルすればいいから。あ、噂をすれば……泉? 」
悠に電話が掛かってきて、なぜかほっと息が漏れた。
何だろう、何かがどこかに引っ掛かったみたいにモヤモヤする。
(……あ……)
さっきの悠の視線だ。
まるで、アプリをアンインストールするのを見守ってたように止まって、移動して――にっこりと笑った。
(……何考えてるの)
そんなの偶然だ。
ううん、もしも本当にそうだったとしても、だから何だっていうの。
マッチングアプリなんて彼女が使ったままだったら、いい気はしないのが普通のはず。
第一、悠だって一緒に消してくれたんだから、気にすることは何もない。
Beside U は、私にとっては「弟じゃない悠」と出逢う為のツールだった。
だから、役目はもう終わり。
ただ、それだけのことだ。