弟、お試し彼氏になる。
次の休み。
悠は珍しく予定があるというので、まずはお父さんに連絡を取った。
「私は、私の意思で悠が好きだよ」という唐突な宣言にも関わらず、お父さんは「そうか。……ありがとう」とたったそれだけの言葉を、すぐにくれた。
お礼を言われた理由を思うと複雑で、まだ手放しには賛成されたわけじゃないかもしれない。
それでも、かなりの前進かなと都合よく解釈している。
お父さんに電話した理由は、もうひとつあった。
「ここだ……」
悠と初めて会った病院。
何か思い出すかなと、期待したわけじゃない。
それでも、見ておきたいと思った。
大きな病院で、当時と変わらないまま……だと思う。
大して覚えてもいないくせに、懐かしいというより何だか切ない。
用事もないのにと躊躇したけど、ここまで来たらと中に入る。
(あの辺りかな……)
一階の待合室。
それほど混んでないけど、邪魔にならないように突っ立っているのも怪しいかも。
ずっといるのも迷惑だし、そろそろ――……。
「ハルくん、もう帰るの? 最近、付き合い悪い」
自動ドアの方へ向きかけた時、そんな声が聞こえた。
「付き合いって。でも、ごめん。今日は、大事な人が家にいてくれてるから」
振り向かなくても分かる。
でも、その声を聞くと、悠の姿を目が求めてしまう。
「せっかく、また玩具が増えたのに。すごいよね。クリスマスじゃなくても来てくれるサンタさんって、誰だろう」
「サンタはサンタだろ。また来るから、その時に見せ……」
何も知らない。
何も聞いてない。
でも、涙が勝手に頰を滑っていく。
「……絢。来てくれたんだ」
さっと帰るべきだった。
あの子は、悠と遊ぶのを楽しみにしてたのに。
それでも、来なければよかったとはどうしても思えない。
「ごめん。勝手に……」
「どうして。ここは、俺たちが初めて会った場所だよ。勝手なんかじゃない。俺のこと想って来てくれたんだよね。嬉しい」
(……どこが悪魔)
自分の似たような子たちの為に、玩具を寄贈したり。
休日に会いに来たりする悪魔なんていない。
「俺こそ、行き先も言わないでごめん。帰ろうか」
「でも……」
「よかったら、今度は一緒に。ダメかな」
そんなわけない。
悠と一緒がいい。
必死に首を振る私の頭を撫でて、「そういうことだから」とその子に告げて。
これ以上泣くのを必死に我慢している私よりも、子どもの方がずっと大人だ。
すべて分かったというように、「了解」の一言で終わらせてくれた。