身代わり婚~光を失った騎士団長は、令嬢へ愛を捧げる

誘い

 レオンは騎士団本部の執務室で、溜息をこぼす。
 考えることはマリアのことだ。
 記憶を失った彼女が、ずっと探していた妻かもしれない。
 しかしその根拠はあの子守歌だけ。
 二人で暮らしていた山荘に連れていけば記憶が戻るかもしれないが、それをためらう自分がいた。
 もし記憶が戻らなかったら? いや、それだけならまだいい。
 もしマリアが求めていた妻でなかったら? 一番恐れているのはそれだ。
 知らないままであれば、心地良かったこの関係が壊れてしまうのが怖かった。

「――ずいぶん、落ちこまれているようですね」

 ゾーイが声をかけてくる。

「仕事なら終わっているぞ」
「分かっています。ですが、団長の顔色が優れないので。マリアさんと喧嘩でもされたんですか?」
「何でもかんでも、マリアと結びつけるな」
「申し訳ございません。では、マリアさんと何があったんですか?」

 わざとやっているのか。

「……………私生活のことだ。いちいちそんなことまでお前に話す謂われはないだろう」
「いつでも話なら聞きますよ」

 ゾーイは肩をすくめた。



 務めを終えたレオンが屋敷に戻ると、マリアがマリアンヌと一緒に玄関広間に現れた。

「マリア? どうして……」

 彼女が倒れたことでしばらく休んでいて欲しいと言っていたのに。

「レオン様のご厚意は感謝いたします。でも、マリアンヌちゃんや使用人の方々のことを考えると、つい……。それに何かをしていたほうが気持ちが楽になりますので」
「そうだったのか」
「パパ!」

 マリアンヌがぎゅっと足に抱きついてくるのを、かかえあげた。

「マリアンヌ、マリアのことは好きか?」
「うん!」
「どうしたんですか、突然」

 普段そんなやりとりをしないから、マリアは不思議そうな顔をしている。

(そうだな。たとえ、マリアが俺が求める妻でなかったとしても……関係ない。俺が今持っている彼女への想いは……)

 彼女と離れれば寂しく感じるし、顔を見るだけで自然と笑みがこぼれる。
 今だってそうだ。
 彼女の顔を一目見た瞬間、胸の奥が熱くなった。
 彼女が仮に妻でなかったとしても、今、レオンが感じている気持ちが消えてなくなる訳ではない。

「今週末だが、何か予定は入っているか?」
「いいえ。またみんなでお出かけですか?」
「もし君さえ良ければ一緒に行きたい場所があるんだ」
「どちらへ?」
「それは当日までの楽しみだ。今週末、迎えに行く」
「分かりました」

 マリアは柔らかな笑みを浮かべて頷いた。
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