ソレが出て来る話を聞かないでください
それは唐突なお願いでした。
あれだけメッセージでやりとりした中にも、そんな内容のことは書かれていませんでした。

めんくらった作者は喉をつまらせて軽く咳払いし、モニター越しの小野彩音さんを見つめました。
小野彩音さんはすごく真剣な顔をしているので、決して冗談でそんなことを言ったわけではなさそうです。

「文章にするって、どういうこと?」
「そうすることで、大切な人が死なずに済むんです」

小野彩音さんが話したことを作者が文章にする。
そこにどんな意図があるのかわからず、返答できませんでした。

相手は中学生ですし、文章にしたところでこちらの実績やお金になるわけはなさそうです。
未成年から勝手にお金をいただくことは当然トラブルの元になるでしょう。

お金を出さずに作家を使うことができるのかどうかわからないのか、小野彩音さん本人も気まずそうな表情になっていました。

それを見た時、本人もちゃんと自覚した上でお願いしてきているのだということがわかりました。

「とにかく話を聞きたいんだけど」

そう言うと小野彩音さんは「文章にしてください。じゃないと話せません」と言い切りました。
さっきまでの気まずそうな雰囲気は消えています。

むしろ威圧的で、命令に近い口調になっていたと思います。

まるでこちらの、抗いがたい好奇心を見透かしたような発言にため息がでました。
そして作者は自分の強い好奇心を呪いました。

「……わかった。文章にすると約束するから、話して」
「ありがとうございます! 最初は私の動画からです。データを送るので、確認してください」
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