ソレが出て来る話を聞かないでください
少しすると二人分の足音は遠ざかって行き、やがて階段を下りて行って完全に聞こえなくなりました。
そのときになってようやく今の人たちと一緒に学校を出ればよかったのだと気が付いて下唇を噛みしめました。

なんてドジなんでしょう。
ひとりで帰るのがこわくてこうして隠れているのに、動画撮影に気を取られていたんです。

私は気を取り直して軽く咳払いをして、スマホに向き直りました。

「その噂が本当かどうかはわかりません。だけど絵里は逃げようとしていました。私は見えるだけでも、絵里にはソレが追いかけて来るように見えたみたいです」

ソレは気が付けばすぐ近くにいます。
私のことをジーッと見つめているのです。

長い髪の毛の隙間から、まるで私のことを怨んでいるかのような恐ろしい目を覗かせています。
私にソレが見えたとき、絵里もまたソレが見えていました。

それ以前から絵里と私は一緒に過ごすことが多かったんですが、ソレを目撃するようになってから更に一緒にいる頻度は高くなっていました。

あれは一週間くらい前のことです。
今と同じで私たちは放課後の教室、しかも教卓の下にいました。

理由も、今の私と全く同じ。

中学生ふたりが教卓の下に入り込むのはかなり窮屈でしたけれど、ソレがいつ現れるかわからないから、怖くて動けなかったんです。
狭い場所で無理にでも密着していた方が落ち着いたんですよね。

『いつまでもこうしているわけにはいかないよね。外に出ようか』
グラウンドから部活動する声が聞こえている最中、絵里はそう言いました。
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