ソレが出て来る話を聞かないでください
私は隣で座り込んでいる絵里をマジマジと見つめました。
『で、でも、今出てきてソレがいたらどうするの?』

『逃げて、トイレにでも隠れる』
絵里が青い顔で答えます。

私にとってソレは離れた場所からこちらを見ているだけですが、絵里からすればソレはものすごいスピードで追いかけてくるのだそうです。

だけど視界から外れると追いかけてこなくなり、気が付けば消えているのだとか。
だから、トイレに隠れる。

と言ったんです。
逃げ切るよりも隠れてやり過ごすほうが確かに懸命です。

そしてこの階は、廊下に出て右手に行っても左手に行ってもトイレがあるから、そう提案したのだとすぐにわかりました。

だけどすぐに頷く事はできません。
なにせソレは恐ろしいほどの冷気を放っていて、足がすくんで動けなくなってしまうことが多いからです。

それでも私はまだ【見える】だけだから怖い以外に実害はありません。
気が付けば消えていますから。

だけど絵里はそうはいかない。
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