三月はbittersweetな季節 ~苦くて死ぬ~
本文
友人の奈子曰く、卒業式がある三月はビタースイートな季節なんだとか。
卒業を機に告白する人が多く、付き合って甘い季節になる人、フラれて苦い季節になる人。だからビタースイート。

告白したことも告白されたこともなく、好きな人さえいない私にとっては関係ない話だけど。

ああでも、好きな人はいないけど、憧れの人ならいる。

ガーデニング部に所属する私は朝の水やり係で、毎日学校の外れにある温室に行くのだけれど、行く為には第三体育館の入口前を必ず通らなければならない。

そこで憧れの人、柳先輩がジョギング前の準備運動をしている。

柳先輩はサッカー部のエース。背が高く、芸能人かと思わんばかりのイケメンで、性格も良く、先輩には可愛がられ後輩には慕われ同輩に悪く言う者はいない。なので凄くファンが多い。

そんな先輩と私は挨拶を交わす関係だ。

6時55分、他に誰も来ないひっそりと静まり返った学校の端っこで二人きり。

ただ、挨拶だけ。

先輩と挨拶すると、よく分からないが胸の辺りがあったかくなる。なんだが心に栄養を貰えてる感じがする。

稀に天気の話もするが、それでもすれ違いざまだから二言三言のみだ。

そんな二言三言が、テンションが上がる程嬉しい。

もっとたくさん話せたらな、とは思う…
思うけど、二言三言、それだけで良い。いや、それだけが良い。

通常運転でも気の利いた会話が出来る自信がないのに、朝が弱い私は、半分眠ったままの脳で先輩と普通の会話さえ出来る気がしない。

変な奴って思われたくない…

まあ、その前に挨拶と天気以外で話しかける勇気もないし、会話を振る切っ掛けもないからそんな心配は必要ないんだけど。



7時、先輩は走り出す。

私は電車通学だから、遅延したりすると7時にスタートする先輩には会えない。

今日はいつも通り来れたから先輩に会えるだろう。

あの河津桜が咲く第2体育館の角を曲がったら、先輩の姿が見える。

ん?先輩がいない…
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