三月はbittersweetな季節 ~苦くて死ぬ~
もう走りに行ってしまったのだろうか?

まだ近くにいないかと視線をさ迷わせれば、温室近くの自販機の前にいた。

先輩はこちらに背を向けているから私に気付いていない。

右手を軽く上げた先輩、自販機には押されるのを待っているランプが付いたボタン。

何を買おうか迷っているのだろうか?

小走りで近づき、少し距離はあったが声を掛けた。

「おはようございます。」

私の声が合図だったかのように、先輩は自販機のボタンを押し、釣り銭を取り出して振り返る。

「おはよう。」

軽く微笑む先輩、マジ格好良い。

心に栄養が染み渡るー

いつもありがとうございます!

栄養をもらい、今日もすれ違う。

「なんか飲む?」

ん?

思考停止する私。

自販機を指差し、私を見る先輩。

いつもと違う会話に一瞬、ほんの一瞬反応するのが遅れてしまった。

けれど、その一瞬の間に半分眠ったままの脳がフル回転する。



先輩奢ってくれるの?

でも、奢ってもらうの悪くない?

仲良い先輩なら…

『わーい!ありがとうございまーす!』ってなるけど、柳先輩とそんなに仲良くないし、むしろ挨拶しかしてないし。

そんな間柄の人に奢ってもらうのは、ちょっと申し訳ないなー

そして出した答え。



「いえ、大丈夫です!申し訳ないですー!」

両手をブンブン振って断った。

「あっいや、俺が奢りたいんだよ。」

「お気持ちだけで嬉しいです!」

またも両手をブンブン振る。

そのまま小走りですれ違い、先輩と話せた嬉しさからのハイテンションで温室へと駆け込んだ。



きゃー!先輩と挨拶と天気以外の話しちゃったー !

ん?でも待って、私。



そこで、あることに気付く。



これ、奢ってもらったらもっと話出来たんじゃ…

「私このジュース好きなんですー」とか「先輩それ好きなんですねー」とか…

奢って貰ってお礼言って直ぐ立ち去ったとしても、別の日に飲み物のお礼を渡しに行くって呈で話出来たんじゃ…



***************



「エル、どうした?」

教室の机で突っ伏している私に、前の席の奈子が声を掛ける。

「アホすぎてつらい…」

「知ってる。そんなの今に始まったことじゃないでしょう。」

「前にさ、奈子が三月はビタースイートな季節って言ってたじゃん?」

「うん、言った。」

「私にはビター過ぎる。苦くて死ぬ…」

「えっ!?どうした!?」

それから奈子に話をきいてもらうも、立ち直ることも気持ちがすっきりすることもなく、自分のアホさ加減を再自覚するだけだった。








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