あなたが運命の番ですか?

あなたは優しい子

 部活が終わり、俺は自宅の玄関扉を開ける。
「ただいま」
 中に入りながらボソッと呟く。
 家の中は、シンと静まり返っていた。
 家政婦の木村さんは、もう帰ってしまったのだろうか。

 伽耶母さんがいるであろうダイニングキッチンを素通りして、俺は自室へ直行しようとした。
 しかし、俺はダイニングキッチンの扉の前で立ち止まる。
 胸騒ぎがする。

「母さん?」
 俺は恐る恐るダイニングキッチンの扉を開けて、中に入る。
 すると、床に倒れている伽耶母さんの姿が目に飛び込んできた。

「母さん!!?」
 俺は慌てて伽耶母さんを抱き起す。
 母さんは真っ青な顔をして、ダラダラと汗を流している。
 貧血?いや、これはヒートか?
 アルファは近親者の発情フェロモンには反応しないので、息子である俺には伽耶母さんが貧血なのか、ヒートなのか判別がつかない。それに、伽耶母さんは番のいるオメガなので、番である亜紀母さんしか伽耶母さんの発情フェロモンに反応しないのだ。
 
「亜紀さん……」
 伽耶母さんは身体をよじらせながら、弱々しい声で呟いた。
「――っ!?」
 俺は生理的な嫌悪感で、反射的にグッと身を引いてしまう。
 ヒートなのでどうしようもない話なのだが、俺は昔からヒートになった母さんの性的な一面が垣間見える瞬間が苦手だ。誰だって、自分の母親のそういう一面は苦手だろうけれど――。
「抑制剤持ってくるから、ちょっと待ってて」
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