あなたが運命の番ですか?
アタシたちはミルキーウェイレストランへ行き、窓際の席に座った。
橘先輩は前回同様ハンバーグのライスセットとドリンクバー、アタシは先輩と同じメニューにフライドポテトの盛り合わせとサラダを付け加えて頼んだ。
「結構食べるんだね」
「アルファはベータよりも食べますから」
アタシはハンバーグを頬張りながら、食事中の橘先輩の様子を眺める。
あれ?これって、もしやデートでは……?
「……何?ジッと見て……。食べづらいんだけど」
「あぁっ、すみません……」
アタシは橘先輩に怒られ、咄嗟に視線を逸らした。
その時、タッチパネル式のメニュー表の画面に表示されている「前園グループ」という文字が目に入った。
「どうしたの?」
「いや、大したことじゃないんですけど……。そう言えば、ミルキーウェイって前園グループの傘下だったなって思って」
「あぁ、星宮さんって演劇部だから、前園くんと部活一緒なんだっけ?」
「はい。あの前園社長の息子さんって聞いていたので、怖い人なのかなぁ?とか思ってたんですけど、実際に話してみると穏やかな優しい人で――」
「はぁ?優しい?前園くんが?」
橘先輩は眉間に皺を寄せる。
「えっ、橘先輩って、前園先輩と何か関わりがあるんですか?」
アタシは思いがけない橘先輩の反応に困惑する。
「……中等部から一緒なんだよ」
「えっ!?橘先輩って、宝月の中等部に通ってたんですか!!?」
「家近いし、中等部もオメガは学費免除されるから……。まあ、驚くよね。高等部と違って、アルファもベータもオメガもクラスはごちゃ混ぜだし、何より僕以外にオメガの生徒はいなかったし……。そりゃそうだよね。普通の親なら、アルファと同じ教室にオメガの我が子を通わせるなんて言語道断だろうからね」
橘先輩は苦い顔をする。
「前園くんってさ、アルファの男で、親は大企業の社長で、おまけに運動神経も良くて成績は常に学年1位で、かなり恵まれた人じゃん。それなのに、『自分は不幸です』みたいな顔してさ。傲慢だと思わない?これ以上、何を望むっていうわけ?」
橘先輩は、苛立ったように吐き捨てる。
「そ、それは……」
橘先輩の言葉を聞いて、アタシの脳裏に前園先輩の顔が浮かんだ。
いつもどこか自信無さげで、何かに怯えているような表情で背中を丸めている前園先輩。
確かに、アルファ男性かつ大企業の社長の息子という肩書には似つかわしくない風貌をしている。
橘先輩の目には、あれが傲慢と映ってしまうのか。
「それに、前園くんは優しいんじゃなくて、周りから『優しい』って思われたいだけだよ。自分は他のアルファとは違うって……。不幸な弱者みたいな顔をして、優しい人を装うただの偽善者だよ」
橘先輩は、不快感を露わにした様子で吐き捨てる。
そんな橘先輩の言葉を聞いて、アタシは腑に落ちた。
「確かに、先輩の言う通りかもしれません」
アタシがそう呟くと、橘先輩は意外そうな顔をした。
「アタシもアルファだから分かるんです。アルファって理由だけで依怙贔屓されたり、プライドが高くて傲慢な人間って思われたりするのって本当に辛くて……。誰だって悪人と思われるより、善人って思われるほうが嬉しいじゃないですか。確かに、橘先輩の言う通り、前園先輩は『優しい』って思われたいだけの偽善者なのかもしれない……。でも、アタシは他人に優しく振る舞える人って、素晴らしいと思いますよ」
アタシの言葉を聞いた橘先輩は、不服そうに口をへの字に曲げる。
アタシが前園先輩の肩を持ったから、橘先輩は拗ねているのだろうか。
「橘先輩のことも、アタシは優しい人だと思います」
「えぇっ!?僕がぁ?」
「この間、先輩がセーラー服を着たことあったじゃないですか。あれって、落ち込んでるアタシを慰めようとしてくれたんですよね?」
――何で急に女装なんかするんですか?
――うーん?まあ、気分転換?なんか、君、落ち込んでるみたいだし。
アタシは、あの時の橘先輩とのやり取りを思い出す。
慰める方法が女装姿での性行為なのはかなり突飛な気がするが、橘先輩らしいと言えばらしいと思う。
「……別に、そういうのじゃないよ」
橘先輩は少し顔を赤くしながら口ごもり、誤魔化すようにストローでジュースを飲み始めた。
図星かな?
「……また着てあげようか?」
橘先輩はそっぽを向いて恥ずかしそうに尋ねる。
可愛い人だな……。
「たまに着てくれたら嬉しいです」
「へぇ、結構気に入ってたんだ?」
橘先輩はニヤリと不敵な笑みを浮かべながら、アタシを見る。
「そ、そんなんじゃないですよっ」
アタシは咄嗟に窓の外を見る。
その時、車道の向こう側の路肩に停めてあるシルバーのワゴン車が目に入った。
アタシはなぜかそのワゴン車が気になってジーッと見つめていると、ワゴン車は走り去っていった。
「どうかしたの?」
「へ?……あぁっ、いやっ、何でもないです」
アタシは動揺を誤魔化すように無理やり笑う。
さっきの車、アタシの視線に気づいて逃げた?
いや、流石にそれは考え過ぎか。
その数日後、週刊誌にアタシと橘先輩の熱愛スクープが掲載された。
橘先輩は前回同様ハンバーグのライスセットとドリンクバー、アタシは先輩と同じメニューにフライドポテトの盛り合わせとサラダを付け加えて頼んだ。
「結構食べるんだね」
「アルファはベータよりも食べますから」
アタシはハンバーグを頬張りながら、食事中の橘先輩の様子を眺める。
あれ?これって、もしやデートでは……?
「……何?ジッと見て……。食べづらいんだけど」
「あぁっ、すみません……」
アタシは橘先輩に怒られ、咄嗟に視線を逸らした。
その時、タッチパネル式のメニュー表の画面に表示されている「前園グループ」という文字が目に入った。
「どうしたの?」
「いや、大したことじゃないんですけど……。そう言えば、ミルキーウェイって前園グループの傘下だったなって思って」
「あぁ、星宮さんって演劇部だから、前園くんと部活一緒なんだっけ?」
「はい。あの前園社長の息子さんって聞いていたので、怖い人なのかなぁ?とか思ってたんですけど、実際に話してみると穏やかな優しい人で――」
「はぁ?優しい?前園くんが?」
橘先輩は眉間に皺を寄せる。
「えっ、橘先輩って、前園先輩と何か関わりがあるんですか?」
アタシは思いがけない橘先輩の反応に困惑する。
「……中等部から一緒なんだよ」
「えっ!?橘先輩って、宝月の中等部に通ってたんですか!!?」
「家近いし、中等部もオメガは学費免除されるから……。まあ、驚くよね。高等部と違って、アルファもベータもオメガもクラスはごちゃ混ぜだし、何より僕以外にオメガの生徒はいなかったし……。そりゃそうだよね。普通の親なら、アルファと同じ教室にオメガの我が子を通わせるなんて言語道断だろうからね」
橘先輩は苦い顔をする。
「前園くんってさ、アルファの男で、親は大企業の社長で、おまけに運動神経も良くて成績は常に学年1位で、かなり恵まれた人じゃん。それなのに、『自分は不幸です』みたいな顔してさ。傲慢だと思わない?これ以上、何を望むっていうわけ?」
橘先輩は、苛立ったように吐き捨てる。
「そ、それは……」
橘先輩の言葉を聞いて、アタシの脳裏に前園先輩の顔が浮かんだ。
いつもどこか自信無さげで、何かに怯えているような表情で背中を丸めている前園先輩。
確かに、アルファ男性かつ大企業の社長の息子という肩書には似つかわしくない風貌をしている。
橘先輩の目には、あれが傲慢と映ってしまうのか。
「それに、前園くんは優しいんじゃなくて、周りから『優しい』って思われたいだけだよ。自分は他のアルファとは違うって……。不幸な弱者みたいな顔をして、優しい人を装うただの偽善者だよ」
橘先輩は、不快感を露わにした様子で吐き捨てる。
そんな橘先輩の言葉を聞いて、アタシは腑に落ちた。
「確かに、先輩の言う通りかもしれません」
アタシがそう呟くと、橘先輩は意外そうな顔をした。
「アタシもアルファだから分かるんです。アルファって理由だけで依怙贔屓されたり、プライドが高くて傲慢な人間って思われたりするのって本当に辛くて……。誰だって悪人と思われるより、善人って思われるほうが嬉しいじゃないですか。確かに、橘先輩の言う通り、前園先輩は『優しい』って思われたいだけの偽善者なのかもしれない……。でも、アタシは他人に優しく振る舞える人って、素晴らしいと思いますよ」
アタシの言葉を聞いた橘先輩は、不服そうに口をへの字に曲げる。
アタシが前園先輩の肩を持ったから、橘先輩は拗ねているのだろうか。
「橘先輩のことも、アタシは優しい人だと思います」
「えぇっ!?僕がぁ?」
「この間、先輩がセーラー服を着たことあったじゃないですか。あれって、落ち込んでるアタシを慰めようとしてくれたんですよね?」
――何で急に女装なんかするんですか?
――うーん?まあ、気分転換?なんか、君、落ち込んでるみたいだし。
アタシは、あの時の橘先輩とのやり取りを思い出す。
慰める方法が女装姿での性行為なのはかなり突飛な気がするが、橘先輩らしいと言えばらしいと思う。
「……別に、そういうのじゃないよ」
橘先輩は少し顔を赤くしながら口ごもり、誤魔化すようにストローでジュースを飲み始めた。
図星かな?
「……また着てあげようか?」
橘先輩はそっぽを向いて恥ずかしそうに尋ねる。
可愛い人だな……。
「たまに着てくれたら嬉しいです」
「へぇ、結構気に入ってたんだ?」
橘先輩はニヤリと不敵な笑みを浮かべながら、アタシを見る。
「そ、そんなんじゃないですよっ」
アタシは咄嗟に窓の外を見る。
その時、車道の向こう側の路肩に停めてあるシルバーのワゴン車が目に入った。
アタシはなぜかそのワゴン車が気になってジーッと見つめていると、ワゴン車は走り去っていった。
「どうかしたの?」
「へ?……あぁっ、いやっ、何でもないです」
アタシは動揺を誤魔化すように無理やり笑う。
さっきの車、アタシの視線に気づいて逃げた?
いや、流石にそれは考え過ぎか。
その数日後、週刊誌にアタシと橘先輩の熱愛スクープが掲載された。