あなたが運命の番ですか?
怪物
僕は物心ついた時から、ずっと好奇な目で見られていた。
両親が共にオメガであり、父が亡くなっているため母子家庭で、母は番のいないオメガの風俗嬢――。
そんな僕の家庭事情を噂して、白い目で見てくる小学校の同級生やその保護者たち。彼らのそんな態度から、僕は自分の家庭環境が普通ではないことを察した。
そして、僕がオメガの男であると発覚すると、ますます僕は好奇な目に晒されて孤立するようになった。
周りは、オメガである僕のことを「性に貪欲な卑しい淫魔」だと陰口を言っていた。
僕の居場所は家だけだ。でも、僕にとって家はただの避難所であり、暖かな家庭とは程遠い。
父さんは僕が物心つく前に亡くなってしまっているので、写真でしか顔を知らないし、思い出なんて1つもない。
母さんはほとんど家にいないし、家にいても酒を飲んでいるか、寝ているかのどちらかだ。僕がまだ幼かった頃は、もっと面倒見の良い母親だったはずなのだが、僕が成長するにつれて避けられるようになった。おそらく、日に日に父さんに似ていく僕の顔を見るのが耐えられなかったのだろう。
母さんは、今でも父さんのことが忘れられないのだろう。だから、今でも番がいないのだと思う。
小学校を卒業すると、僕は「家から近い」という理由だけで、宝月学園中等部に進学した。
中等部の同級生は、金持ちのボンボンとお嬢様ばかりで、生徒の3分の1がアルファだった。中等部には、オメガは僕1人しかいない。
受験も簡単な面接だけで通り、学費も免除されているオメガの僕は、完全に場違いな存在だ。
「オメガの男子なんて初めて会った」
「男なのに妊娠できるらしいぞ」
クラスメイトたちは、僕のことを遠巻きに見ながらヒソヒソと話していた。
案の定、僕はクラスに馴染めず、友達は1人もできなくて、進学校の勉強にもついていけない。
何も楽しくない学校生活。1年生の間、僕は教室の隅でひっそりと息を潜めながら過ごしていた。
そんな僕に転機が訪れたのは、2年生の4月のことだ。
「ねぇねぇ、橘くん」
始業式の放課後、帰ろうと荷物をまとめている僕に、クラスメイトの水瀬が話しかけてきた。
水瀬とは、2年生で初めて同じクラスになった。
水瀬は同じアルファ男子の取り巻きたちと共に僕を囲み、僕を見下ろしながらニヤニヤと下品な笑みを浮かべている。
水瀬を含めたアルファ男子たちは、中学2年生の時点でみんな身長が180cmを超えていた。
そんな威圧感のある大男たちに突然取り囲まれ、僕は恐怖で思わず後退ってしまう。
「えっ?な、何……?」
水瀬は当時から有名な不良で、1年の時にクラスメイトであるベータの男子をいじめで不登校に追い込んだという噂を僕も耳にしたことがある。そのため、僕は本能的に「絡まれたらマズい」と思った。
「この後、暇?――だったら、俺たちと一緒にゲームでもして遊ばない?」
水瀬は不気味な笑みを浮かべながら、僕の肩に手を回す。
水瀬に肩を抱かれた瞬間、僕はゾワッと全身が粟立った。
「えっ、いや……」
僕は水瀬たちが怖くて委縮してしまう。
「見ろよ、水瀬がオメガの子に絡んでるぞ」
「可哀想……。誰か助けてあげなって」
「ヤダよ。あいつに目ぇ付けられたくないじゃん」
クラスメイトたちは遠巻きに見ているばかりで、誰も助けてくれない。
「や、やだ……。離して……」
僕は恐怖で身体が固まってしまい、かろうじて弱々しい声で抵抗する。
「大丈夫だよ、そんな怖がることないって」
水瀬はニヤニヤと笑いながら、僕の腕を掴んで無理やり引きずって、どこかへ連れて行こうとする。
終わった……。
水瀬たちに力で敵うはずもなく、周りのクラスメイトたちは助けてくれない。僕はもう既に諦めていた。しかし――。
「おい、やめろよ」
すると、僕の腕を掴んでいる水瀬の腕を、誰かが掴んで引き離そうとしているのが見えた。
顔を上げると、そこにはクラスメイトのアルファ男子がいた。
「何すんだよ、お前」
水瀬は眉間に皺を寄せながら、相手のアルファ男子を睨む。
「嫌がってるだろ。その手、離せよ」
「はぁ?んだと、テメェ……」
水瀬は僕の腕を離すと、ドスを利かせた声を発しながらアルファ男子に詰め寄る。
「お前だって、表立って騒ぎを起こして、親父さんに小言を言われるのは嫌だろ」
その言葉を聞いた水瀬は、一瞬動揺したような表情を見せる。
そして、水瀬は不服そうな顔で「チッ」と舌打ちをすると、取り巻きを引き連れて教室を後にした。
「大丈夫?」
助けてくれたアルファ男子は、心配そうに僕の顔を覗き込む。
「あっ、う、うん……。助けてくれてありがとう」
同級生とまともに会話したことがなかった僕は、ドギマギしながら礼を言う。
「それなら良かった。――俺、佐伯良平って言うんだ。よろしくね」
それが僕と佐伯の出会いだった。
両親が共にオメガであり、父が亡くなっているため母子家庭で、母は番のいないオメガの風俗嬢――。
そんな僕の家庭事情を噂して、白い目で見てくる小学校の同級生やその保護者たち。彼らのそんな態度から、僕は自分の家庭環境が普通ではないことを察した。
そして、僕がオメガの男であると発覚すると、ますます僕は好奇な目に晒されて孤立するようになった。
周りは、オメガである僕のことを「性に貪欲な卑しい淫魔」だと陰口を言っていた。
僕の居場所は家だけだ。でも、僕にとって家はただの避難所であり、暖かな家庭とは程遠い。
父さんは僕が物心つく前に亡くなってしまっているので、写真でしか顔を知らないし、思い出なんて1つもない。
母さんはほとんど家にいないし、家にいても酒を飲んでいるか、寝ているかのどちらかだ。僕がまだ幼かった頃は、もっと面倒見の良い母親だったはずなのだが、僕が成長するにつれて避けられるようになった。おそらく、日に日に父さんに似ていく僕の顔を見るのが耐えられなかったのだろう。
母さんは、今でも父さんのことが忘れられないのだろう。だから、今でも番がいないのだと思う。
小学校を卒業すると、僕は「家から近い」という理由だけで、宝月学園中等部に進学した。
中等部の同級生は、金持ちのボンボンとお嬢様ばかりで、生徒の3分の1がアルファだった。中等部には、オメガは僕1人しかいない。
受験も簡単な面接だけで通り、学費も免除されているオメガの僕は、完全に場違いな存在だ。
「オメガの男子なんて初めて会った」
「男なのに妊娠できるらしいぞ」
クラスメイトたちは、僕のことを遠巻きに見ながらヒソヒソと話していた。
案の定、僕はクラスに馴染めず、友達は1人もできなくて、進学校の勉強にもついていけない。
何も楽しくない学校生活。1年生の間、僕は教室の隅でひっそりと息を潜めながら過ごしていた。
そんな僕に転機が訪れたのは、2年生の4月のことだ。
「ねぇねぇ、橘くん」
始業式の放課後、帰ろうと荷物をまとめている僕に、クラスメイトの水瀬が話しかけてきた。
水瀬とは、2年生で初めて同じクラスになった。
水瀬は同じアルファ男子の取り巻きたちと共に僕を囲み、僕を見下ろしながらニヤニヤと下品な笑みを浮かべている。
水瀬を含めたアルファ男子たちは、中学2年生の時点でみんな身長が180cmを超えていた。
そんな威圧感のある大男たちに突然取り囲まれ、僕は恐怖で思わず後退ってしまう。
「えっ?な、何……?」
水瀬は当時から有名な不良で、1年の時にクラスメイトであるベータの男子をいじめで不登校に追い込んだという噂を僕も耳にしたことがある。そのため、僕は本能的に「絡まれたらマズい」と思った。
「この後、暇?――だったら、俺たちと一緒にゲームでもして遊ばない?」
水瀬は不気味な笑みを浮かべながら、僕の肩に手を回す。
水瀬に肩を抱かれた瞬間、僕はゾワッと全身が粟立った。
「えっ、いや……」
僕は水瀬たちが怖くて委縮してしまう。
「見ろよ、水瀬がオメガの子に絡んでるぞ」
「可哀想……。誰か助けてあげなって」
「ヤダよ。あいつに目ぇ付けられたくないじゃん」
クラスメイトたちは遠巻きに見ているばかりで、誰も助けてくれない。
「や、やだ……。離して……」
僕は恐怖で身体が固まってしまい、かろうじて弱々しい声で抵抗する。
「大丈夫だよ、そんな怖がることないって」
水瀬はニヤニヤと笑いながら、僕の腕を掴んで無理やり引きずって、どこかへ連れて行こうとする。
終わった……。
水瀬たちに力で敵うはずもなく、周りのクラスメイトたちは助けてくれない。僕はもう既に諦めていた。しかし――。
「おい、やめろよ」
すると、僕の腕を掴んでいる水瀬の腕を、誰かが掴んで引き離そうとしているのが見えた。
顔を上げると、そこにはクラスメイトのアルファ男子がいた。
「何すんだよ、お前」
水瀬は眉間に皺を寄せながら、相手のアルファ男子を睨む。
「嫌がってるだろ。その手、離せよ」
「はぁ?んだと、テメェ……」
水瀬は僕の腕を離すと、ドスを利かせた声を発しながらアルファ男子に詰め寄る。
「お前だって、表立って騒ぎを起こして、親父さんに小言を言われるのは嫌だろ」
その言葉を聞いた水瀬は、一瞬動揺したような表情を見せる。
そして、水瀬は不服そうな顔で「チッ」と舌打ちをすると、取り巻きを引き連れて教室を後にした。
「大丈夫?」
助けてくれたアルファ男子は、心配そうに僕の顔を覗き込む。
「あっ、う、うん……。助けてくれてありがとう」
同級生とまともに会話したことがなかった僕は、ドギマギしながら礼を言う。
「それなら良かった。――俺、佐伯良平って言うんだ。よろしくね」
それが僕と佐伯の出会いだった。