あなたが運命の番ですか?
 あの日以来、僕と佐伯はお互いを避けるようになった。
 
 一応、僕だって佐伯にフラれる想定自体はあった。
 だけど、8割くらいは佐伯も僕に対して気があると思っていた。アルファの佐伯がオメガの僕に優しく接してくれたり、「可愛い」と言ってくれるのは、僕に好意があるからだと思っていた。
 まさか、あんなに嫌悪と失望を露わにされるとは思いもしなかった。

 ――えっ……、俺たち、()()()じゃん。
 ――友達だと思ってたのに……。

 あの時の佐伯の言葉が、僕の頭から離れてくれない。
 しかし、佐伯の言葉によって僕はようやく、佐伯にとって僕は「同性の友達」であったことに気づいた。
 そして、僕はそんな友達に対して、邪な感情を抱いてしまった。
 佐伯が嫌悪を露わにしたのは、「無害な同性の友達」だと思っていた僕が急に性欲を剥き出しにしたせいだろう。あの瞬間、佐伯の目には、僕が「性に貪欲な怪物」に映ったのだと思う。
 
 僕がショックだったのは佐伯に拒絶されたことではなく、人生で初めて出来た友達である佐伯に対して、僕が欲情してしまったことだ。
 ショックを受けると同時に、僕は自分がオメガであるという事実を、改めて突きつけられたような気がした。
 オメガはアルファを誘惑する卑しい淫魔――。それが世間で言われているオメガへの偏見。まさに、僕にぴったりの表現だと思う。
 僕は佐伯のことを「友達」ではなく、「アルファの男」として見ていたのだ。僕は、佐伯を裏切ってしまった。

 夏休みが明けると、僕は4月以前のように、教室の隅でポツンと孤立する日々に戻った。
 僕と佐伯が疎遠になったことで、クラスメイトたちは「2人の間に何かあったのではないか」とあることないこと噂し始めた。
 クラスメイトたちが僕たちの噂話をしている時、僕は遠くにいる佐伯のほうをチラッと見たことがある。その時、佐伯は真っ青な顔をして、聞こえていないふりをしていた。その様子を見た時、僕はギュッと胸が締め付けられた。
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