あなたが運命の番ですか?
「橘くん、最近ずっと1人でいるね」
 放課後、1人で下校の準備をしていると、水瀬たちがニヤニヤと笑いながら話しかけてきた。
「もしかして、佐伯にフラれちゃった?可哀想に……」
 水瀬はそう言いながら、僕の肩に手を回してきた。

「俺たちが慰めてあげようか?」

 僕は、水瀬の言葉の意味が分かっていた。
 分かった上で、僕は水瀬の誘いに乗ったのだ。

 僕は水瀬たちに連れられて、体育倉庫へ向かった。
 そこで、僕はファーストキスと処女を捨てた。
 
 4人のアルファの男たちに代わる代わる身体を貪られながら、僕は幾度となく絶頂した。
 セックスって、こんなに気持ちいいのか……。快楽に溺れる僕の頭は、そんなことしか考えられなくなっていた。
 オメガの身体は妊娠出産に特化しているだけでなく、性行為にも特化しているそうだ。アルファやベータに比べて身体は敏感で、処女でも痛みよりも快楽のほうを強く感じることができる。――確かに、その通りだった。
 しかも、興奮したアルファのフェロモンには、オメガの性欲増進作用があるそうだ。おそらく、僕は水瀬たちのフェロモンのせいで、身体がより敏感になったのだと思う。

「結構良かったよ、橘くん。また遊ぼうね」
 水瀬たちは、体液まみれとなった僕に万札を数枚握らせると、僕を置いてその場を後にした。
 自分の手に握られた万札を眺めていると、心にポッカリと穴が開いたような感覚になった。
 初めての相手は、佐伯が良かったな……。

 その日から、僕は水瀬たちと肉体関係を持ち、対価としてお金を貰うようになった。
 僕の家はさほど裕福でないが、お金に困っているというほどではない。母さんはアパートの家賃等の生活費をきちんと払ってくれるし、たまに漫画やゲームソフトを買える程度にはお小遣いもくれる。わざわざ僕が身体を売る必要なんてない。
 僕がお金を受け取るのは、ただの「言い訳」だ。本当は、ただセックスがしたかっただけだ。
 水瀬たちとの行為の間、僕は佐伯への気持ちも、自分への嫌悪感も――、嫌なことを全て忘れられた。
 僕は水瀬たちとの――、アルファとのセックスに溺れていたのだ。だけど、ただ性に溺れているだけなんて認めたくないから、売春を言い訳に使ったのだ。

 僕が不良で有名な水瀬たちと関わるようになると、同級生たちの間で悪い噂が出回るようになった。
 橘千尋は、金を渡せば誰とでも寝る淫売――。
 正直、それは否定できない。
 
 水瀬のグループ以外にも、僕の噂を聞きつけた別クラスのアルファの男子たちが何人か僕に性処理を頼んできた。そして、僕は全ての誘いに応じた。
 嫌ではなかった。セックスができるのならば、快楽によって嫌なことを何もかも忘れられるのならば、相手なんて誰でも良かった。
 行為の最中は気持ちいいことしか考えられないのだが、終わった途端に空しさが襲い掛かってくる。その空しさを埋めたくて、また別の誰かを求めてしまう。そんな悪循環を繰り返していた。
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