あなたが運命の番ですか?
「春川さんってさ、運命の番を信じてるタイプでしょ」
「えっ?……きゅ、急になんですか?」
「前園くんのこと、運命の番だって思う?」
 戸惑う私に、橘先輩は真剣な面持ちで質問をする。
 
 前園先輩は、私の運命の番なのか――。
 私は今までの前園先輩との思い出を振り返る。
 運命の番は、本能的に強く惹かれ合うアルファとオメガのことで、身も心も相性がぴったりだという存在だ。しかし、かなり定義が曖昧なため、確かめる術は皆無に等しい。
 正直、私は前園先輩に対して、何か運命的なものを感じたことはない。

「正直、よく分かりません」
 私は素直に答えた。
「でも、前園先輩が私の運命の番だったら良いな、とは思います」
 私がそう答えると、橘先輩は薄く笑みを浮かべ、「やっぱり、君は信じてるんだね」と呟いた。

「僕は、運命の番なんて、自分の人生を悲観したオメガが作り出した願望――『おとぎ話』だって思って、全然信じてなかったんだ」
 橘先輩は寂しそうな表情を浮かべながら語る。
 
「春川さんって、子供の頃、サンタを信じてたんじゃない?」
「小学生の頃は、そうでしたね」
「ふふっ、やっぱり……。サンタってさ、信じてる子供のところに来るんでしょ?僕は信じてなかったから、1度も来なかったなぁ……。サンタも、運命の番も、きっと信じてる人のところにやって来るんだよ。僕も、信じて待っていたら、春川さんみたいに運命の王子様かお姫様が迎えに来てくれたのかもね」
「先輩――」
「でも、もう全部遅すぎたんだ。今回の週刊誌の件で、よく分かったよ。僕と星宮さんは、住む世界が違うんだ。僕なんかと一緒に居たら、星宮さんまで白い目で見られちゃう。……僕は自分が何を言われようと平気だけどさ、星宮さんが非難されるのは、辛いよ……」
 橘先輩は絞り出すように言うと、突然スッと立ち上がって、出入り口の方へと歩いていく。

「あっ、せ、先輩……、待ってください」
 私も慌てて立ち上がる。
 すると、橘先輩はクルッと振り返る。その表情は、どこか穏やかだが、悲しみが滲んでいるように見えた。

「僕が言うのもアレだけどさ……、前園くんは良い奴だよ。きっと君のことを大事にしてくれる。それに、春川さんは僕と違って素直な子だから……、君は幸せになれるはずだよ」

 優しげな笑みを浮かべて、私にそう告げると、橘先輩は外へ出て行った。
 私は橘先輩に掛ける言葉が見つからず、ただその場に立ち尽くしていた。
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