あなたが運命の番ですか?

家出

 私は家を飛び出して十数分程度あてもなく走り、人目に付かないように歩道橋の階段裏でうずくまった。
 辺りはもうすっかり暗くなっており、私の傍を横切る車やバイクのライトがチカチカと眩しい。
 
 どうしよう。思わず飛び出してきちゃった。
 家に帰ったら、絶対に怒られる。またお母さんがいつものように喚き散らすんだ。
 発狂して私に喚き散らすお母さんの姿を想像するだけで、背筋が凍る。
 でも、他に行く当てなんてない。
 家に帰りたくない。お母さんに会いたくない――。もう、いっそのこと消えてしまいたい。
 そんなことを考えながら、私は膝を抱えてボロボロと涙を流す。

 私はそんな状態になって、30分程度が経過した。その間、私はずっと地面を見つめていた。
 すると、私の視界の中に、何かを探すようにウロウロとするライトの光が見え、私は反射的に顔を上げた。

「――前園先輩?」
 そこには、ライトを点けたスマホをかざす前園先輩の姿があった。
「……あぁ、良かった。見つけた」
 紺色のジャージ姿の前園先輩は、私と目が合うなりホッとしたように胸を撫で下ろし、かざしていたスマホを下げる。
 
「な、何で、先輩がここに?」
 私は呆気に取られながら、質問した。
「君のご両親から連絡があったんだ。『娘が突然家を飛び出した。居場所を知らないか?』ってね。それで、うちの両親も交えて5人で春川さんを探すことになったんだ。もうしばらく経っても見つからなかったら、110番するところだったよ」
 前園先輩の言葉を聞いて、先輩やその両親にも迷惑を掛けてしまったと知り、私は罪悪感で「すみません」という言葉が口をついて出た。
 
「でも、どうしてここが分かったの?」
「流石にそんな遠くへは行ってないかなって……。あとは……、勘かな?春川さんのことを探してたら、自然とこっちに足が向いて……」

 前園先輩は私の元へ歩み寄ると、その場にしゃがみ込んだ。
「春川さん、こんな時間に1人でいたら危ないよ?」
 前園先輩は諭すように語り掛ける。
 あぁ、「帰ろう」って言われるんだろうな……。
 私は拗ねて、再び視線を地面に戻す。

「落ち着くまで、俺と一緒にいよう?」
「――えっ」
 思いがけない前園先輩の言葉に、私は驚いて顔を上げる。
 すると、前園先輩は私に向かって優しく微笑んだ。
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