あなたが運命の番ですか?
「そう言えば、聞いたわよ、寿々ちゃん。あのアルファの女の子、週刊誌に載ったんですってね」
「えっ……」
 私が考え事をしていると、突然お母さんが渋い顔をしながら口を開いた。
 まさかお母さんの口から、あの週刊誌の話が出てくるなんて思いもしなかったので、私は驚く。
 
「モデルさんとはいえ、高校生を付け回してプライベートを世間に晒すなんて、ほんと下品ね。どうして、あんな物が堂々と世間に出回っているのかしら?」
 お母さんはブツブツと文句を言いながら、白米を口に入れる。
 お母さんも、星宮さんたちのスキャンダルのこと知っていたのか。昔から芸能人のスキャンダルや週刊誌を毛嫌いする人なので、結構意外だ。

「けどまぁ……、これで寿々ちゃんも、お母さんの言ってたことが正しかったって、分かったわよね?」

 すると、お母さんは突然茶碗と箸を置いて、真っ直ぐ私を見据えながらそう言い放った。
「――えっ?」
 私はお母さんの言葉に、呆気に取られた。
 正しかった?正しかったって、何?

「アルファに近づいちゃダメだって、お母さん、何度も言ってたよね?相手の子、オメガの男の子なんでしょ?しかも、事務所の発表だと、『2人は正式な婚約者ではない』そうね。不純異性交遊だなんて、はしたない……。やっぱり、オメガがアルファに近づくのは危険なのよ。あの子、きっと寿々ちゃんに対しても、邪な目的で近づいたんだわ」
「おい、よせって……」
 お父さんは呆れ気味に、お母さんを止めようとする。
 
「あなたは寿々ちゃんが心配じゃないの!?せっかく優一郎さんと婚約してるのに、寿々ちゃんに変な虫が付きでもしたら……」
 お母さんは隣にいるお父さんのほうを向きながら、捲し立てるように話す。
 
「それはそうだけど……。わざわざ寿々の目の前で言わなくたっていいだろ」
「何言ってるの!?寿々ちゃんはまだ子供なのよ!?世の中のことが分かってないの!親である私たちが、こういうことをちゃんと教えていかなきゃダメなのよ!!!」
 お母さんは顔を真っ赤にして、怒鳴り声を上げる。
 それに対して、お父さんは深くため息を吐いて頭を抱え始めた。
 そして、お母さんはもう1度私のほうに向き直る。

「寿々ちゃん、あなた、部活を辞めなさい」
「――は?」
 私はお母さんの言葉に、頭が真っ白になった。

「な、何で……、急に……」
 私は理解が追い付かず、狼狽える。
「相手のオメガの子、園芸部の子なんじゃない?夜中に何度もアルファを家に招き入れるだなんて、ふしだらな子……。そんな子と一緒に居たら、寿々ちゃんも悪い影響を受けるに決まってるわ」
 お母さんが言葉を発するたびに、私の身体からどんどん血の気が引いていく。

 どうして、お母さんは星宮さんと橘先輩のことをそんなふうに非難するのだろうか。話したことはおろか、会ったことすらない2人のことを――。
 
 星宮さんは、邪な目的で私に近づいたわけではない。彼女は、私に声を掛けてくれた鏑木さんとたまたま幼馴染だっただけだ。
 それに、星宮さんは私を気遣って、ヒートの前は接触しないようにしようと提案してくれた。彼女が私に変なことをしようと企んでいたはずがない。
 
 橘先輩と一緒に居たら、私が悪い影響を受ける?そんなはずがない。だって――。

 ――その子は()()()()()じゃないからダメだよ。――っていうか、僕以外の園芸部員はダメだから。

 花壇の水やりの最中、水瀬先輩に絡まれている時、橘先輩は私を庇ってくれた。
 むしろ、橘先輩は悪いアルファから私を遠ざけようとしてくれた。
 
 2人は、私にとって大事な友達で、同じオメガの仲間で――。
 それなのに、お母さんは2人の一面だけを切り取って、頭ごなしに批判する。
 挙句の果てには、園芸部という私の居場所まで取り上げようとしている。

「明日にでも退部しましょう?学校には、お母さんのほうから連絡しておく――」
 私はお母さんの言葉を遮るように、ガタッと音を立てて椅子から立ち上がった。
 お母さんとお父さんは、呆気に取られた様子で私を見上げる。

「どうして……、お母さんはそんな酷いことを言うの……?何も知らないくせに……。星宮さんのことも、橘先輩のことも、何も……」
 私は顔を伏せて、涙を堪えながら言葉を絞り出す。
「私の友達を否定しないでよ……。私の人生を勝手に決めないでよ……」
 もう我慢の限界だった。

「私はお母さんの操り人形なんかじゃない!!!」

 私はそう叫ぶと、リビングを飛び出して、一目散に玄関へと走った。
 
「寿々ちゃん!?待って!!!」
「寿々!!どこ行くんだ!!?」

 私は慌てふためく両親の声を無視して、玄関から外へ飛び出した。
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