あなたが運命の番ですか?

カッコつけるな

『此花!私はこんなにも君を愛している……。それなのに、なぜ君は振り向いてくれないんだ!?』
『いけません!小十郎様……!』
 此花は悲痛な叫び声を上げながら、私の手を振り解こうとする。
 
『どうしてなんだ……。私が……、私が女――半陰陽だからか?だから、君は私を拒絶するんだな?』
『いいえ、そうではありません。小十郎様が女子(おなご)だからでも、半陰陽だからでもありません……。私には心に決めた殿方が……、猪三郎様がいるからです!』
 此花は私に顔を背けたまま、そう言い放った。
 その言葉を聞いた瞬間、私の身体から一気に力が抜けていく。
 
『……なるほど。では、こうしよう。猪三郎がいなければ、私と夫婦(めおと)になってくれるか?』
『えっ……』
 私はゆっくりと此花の手を離す。そんな私に対して、此花は狼狽した様子で私を見上げる。
 
『こ、小十郎様……。一体、何を……?』
『夫婦になってくれるんだな?』
 私は食い気味に、そして自分に言い聞かせるように問う。
『それならば、私は猪三郎を――』

 その瞬間、アタシの頭が真っ白になった。
 身体が固まり、口をパクパクさせる。しかし、続きのセリフが出てこない。
 目の前にいる此花役の3年生のベータ女子の先輩も、素で困惑の表情を浮かべている。
 
「――っ、すみません!」
 アタシは諦めて、深々と頭を下げた。
「あぁ、いいよ、大丈夫だから。ちょっと休憩しようか」
 部長は苦笑いする。
 
 アタシは此花役の先輩に再度謝罪してから、休憩に入った。
「――あっ!『亡き者にしてやろう』だ……」
 アタシは今更セリフを思い出して、頭を抱えながら唸り声を上げる。

 ここ数日、アタシはセリフを飛ばしてしまうことが多くなった。
 文化祭まで、あと2週間くらいしかない。来週には通し稽古が始まるのに、こんな調子ではみんなに迷惑を掛けてしまう。
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