あなたが運命の番ですか?
 その後も、両親たちは互いの子育てについて語り合っていた。
 親たちが談笑している間、私と前園先輩は下を向き、運ばれてきた料理をチビチビと食べる。
 なんだか、「蚊帳の外」って感じがする。

「そうだ。優一郎、寿々さんにも進路の話聞かせてあげたら?」
 前園社長は突然前園先輩に話を振り、咀嚼していた前園先輩は慌ててゴクリと飲み込み、箸を置く。
 そして、前園先輩は改めてかしこまったように背筋を伸ばして、膝の上に手を置いた。
 私も前園先輩につられ、慌てて箸を置いて、同じように背筋を伸ばした。

「将来は、母の会社で商品開発に携わろうと思っています。ゆくゆくは、母の後を継ぐつもりです。そのために、高校を卒業したら大学へ進学して、栄養学を学ぶつもりです」
 前園先輩は、まるで面接官に話すかのように、しっかりとした口調で語る。

 ――最初はちょっと頼りなさそうだなって思ったんだけど、受け答えはしっかりしてるし、将来のこともきちんと考えてて、真面目で感じの良さそうな子だったわ。

 そんな前園先輩の姿を見て、私はようやくお母さんの言葉の意味が理解できた。
 すごいなぁ。親の会社を継ぐことまでちゃんと考えて、進路も決めて……。

「優一郎さん、ほんとしっかりしていますね。うちの寿々ちゃんは、お料理上手で、休みの日は夕飯作りを手伝ってくれるんですよ。特にオムライスが得意で、私も主人も、寿々ちゃんのオムライスが大好きなんです。お料理以外の家事も、よくお手伝いしてくれて……」
 お母さんは、早口で私の家事スキルについてのプレゼンを始めた。
 中学の頃、お母さんは「大人になった時、料理ができないと苦労する」と言って、休日になると私に料理を教えてくれるようになった。
 何となく「花嫁修業なんだろうな」と思って渋々始めたが、やってみると結構楽しくて、今では自ら進んで料理をするようになった。

「あらまあ、すごいですね。私なんて新婚時代、目玉焼きくらいしか作れませんでした」
 伽耶さんはそう言ってクスクスと笑い、それに対して前園社長も「確かにそうだったわね」と笑った。

 お見合いも終盤に差し掛かり、前園社長は腕時計を見ながら「そろそろお開きの時間ですね」と言う。
「優一郎、今日ここでお見合いの返事をしておく?」
 前園社長がそう尋ねると、前園先輩は少し考えてからコクッと頷いた。

 えっ!?今ここで返事するの!!?

 私が困惑していると、前園先輩は真っ直ぐ私の目を見つめてきた。
 
「寿々さんが僕で良いとおっしゃるなら、僕は寿々さんと番になりたいですし、結婚もしたいです」
 
 前園先輩は先ほどまでと打って変わって、私の目を真っ直ぐ見て、1度も逸らさずに真剣な表情で話す。
 その表情を見た瞬間、私はドキッと胸が脈打った。

「寿々ちゃんはどうする?」
「――へっ!?」
 私が呆然としていると、お母さんが返事を尋ねてきた。
 その場にいる5人全員の視線が私に集まる。

「えっ、えっと……」
 私は何と言えばいいのか分からず、しどろもどろになる。
「まあ、法律上結婚するのも番になるのも、18歳にならないとできませんし、返事を急がなくっても……」
 私が困っていると、伽耶さんがフォローしてくれた。
「いっ、いえっ――」
 しかし、私は「気を遣わせてしまった」と思い、逆に焦る。

「え、えっと、――私も、優一郎さんと番になりたいです……」
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