あなたが運命の番ですか？

　幕が上がると、舞台上には２人の侍が立っていた。程なくして、侍たちは互いに木刀で打ち合い始める。
　そして、大柄なほうの侍が、相手の木刀を弾き飛ばし、勝敗が決まったようだ。

『ああ、やっぱり君には敵わないな、猪三郎』
　比較的小柄な方の侍は、「参った」という感じに笑う。
　小柄な侍は、長髪を後ろで１つに束ね、茜色の着物に、焦げ茶色の袴を身に着けている。
　この侍を演じているのが星宮さんであることは、すぐに分かった。
　男装姿の星宮さんは、所謂「二枚目俳優」といった凛々しい雰囲気で、思わず見惚れてしまうほどカッコいい。

『いつも君が稽古の相手になってくれるおかげだよ、小十郎。腕の良い剣士である君に負けないように、いつも必死になっているだけさ』
　藍色の着物に、灰色の袴姿の猪三郎は、にこやかに小十郎を称(たた)える。
『謙遜なんてやめてくれよ』
　小十郎は呆れたように呟きながら、地面に落ちた木刀を拾い上げる。
　
　私は少し遅れて、大柄な侍・猪三郎を演じているのが優一郎くんであることに気づく。いや、正確には、猪三郎を演じているのが優一郎くんであることを思(・)い(・)出(・)し(・)た(・)のだ。
　
　猪三郎を演じている優一郎くんは、星宮さん同様に後ろで１つに束ねた長髪のカツラを被っている。そして、普段の優一郎くんとは違い、裸眼で背筋を伸ばし、どこか自信に満ち溢れた雰囲気を纏っていた。
　私は事前に、優一郎くんと星宮さんからそれぞれの役名を教えてもらっていた。しかし、舞台の上にいる猪三郎の姿が、普段の優一郎くんとあまりにも違うため、私は同一人物と認識できなかったのだ。

『木々が紅く色づいてきたな。もうすぐ８回目の命日か。君の、弟(・)の――』
『何を言っているんだ。亡くなったのは、私の姉(・)――おふくだぞ』
　小十郎は、猪三郎の目を真っ直ぐ見つめながら訂正する。
　それに対して、猪三郎は『すまない、記憶違いをしていたようだ』と悲しげに笑った。
　まだ冒頭だというのに、私は想像以上の２人の演技力の高さに舌を巻く。周りにいるクラスメイトたちも、目の前の舞台に引き込まれている様子だ。