あなたが運命の番ですか?
「はぁ……、暑い、喉乾いた……」
炎天下の中、校舎内だけでなく、模擬店が立ち並ぶ外も探し回り、アタシはもうすっかりバテてしまった。
とりあえず、水分補給のために捜索は一時中断することにする。
校舎内や正面玄関近くの自動販売機は、おそらく人だかりができていると思うので、アタシは裏庭の自動販売機へと向かうことにした。
フラフラとした足取りで裏庭へ向かうと、アタシの読み通り、人影が少ない。
アタシはそのまま自動販売機の元へ歩く。すると――。
「――橘先輩?」
アタシはそこで、200mLのペットボトルを持った橘先輩と鉢合わせた。
その瞬間、心臓が「ドクン」と大きく鼓動する。
「あっ――」
アタシと目が合った橘先輩は、焦ったような顔をすると、無言でアタシの横を通り過ぎようとする。
「待ってくださいよ!」
アタシは咄嗟に、橘先輩の手を掴んで引き留める。
「アタシ、昨日、『話したいことがある』ってメッセージ送りましたよね?」
アタシは質問するが、橘先輩は顔を背けて口を閉ざす。
「どうして無視するんですか?アタシのこと、……口も利きたくないくらい嫌いなんですか?」
恐る恐る尋ねるが、橘先輩は固まったまま、うんともすんとも返事をしない。
顔が見えないから、先輩がどんな表情をしているかも分からない。しかし、掴んでいる右手が一瞬ビクッと震えたことだけは分かった。
アタシは直感で「この手を離してはいけない」と思った。今この手を離したら、アタシはもう2度と橘先輩に会えないような気がした。
言うなら、今しかない。
「……何も答えてくれないなら、このまま勝手に話しますね」
アタシは焦る気持ちを抑えきれず、強引に本題へ入る。
「アタシは、橘先輩のことが好きです」
ハッキリとそう言い放つと、橘先輩は初めて振り向いてくれた。
橘先輩は無意識で振り向いたのか、「しまった」という顔をする。そして、戸惑ったように目を泳がせ始めた。
「先輩が好きです。だから、アタシと――」
「ダメだよ……」
すると、橘先輩は弱々しい声でアタシの言葉を遮った。
「どうしてですか?アタシのことが嫌いなんですか?だったら、そう言って――」
「違う!」
橘先輩は声を上げる。そして、泣きそうな顔になりながら、顔を俯かせる。
「違うよ……。君が嫌いなわけじゃない。僕は……、君にふさわしくないから……。僕みたいな淫売と一緒に居たら……、君まで白い目で見られる……。だから、もう君と一緒に居られない……」
橘先輩は涙声になりながら、必死に言葉を紡ぐ。
「何ですか、それ……」
アタシは「呆れ」に近い感情が沸き上がった。
橘先輩は、アタシのことを気にして、アタシを無視していたってこと?
「そんなの、アタシは気にしませんよ。誰に何を言われようとヘッチャラです。先輩がアタシに気を遣う必要なんて――」
「違う!そうじゃない!僕が嫌なんだよ!僕のせいで君が周りから白い目で見られている様子を見るのが、僕は耐えられないんだ!」
橘先輩は駄々をこねるように言い放つ。
「……は?」
橘先輩の言葉を聞いた瞬間、あまりの衝撃にアタシはしばらくの間呆然とした。
「な、何なんですか……。そんな、ワガママ……」
アタシの感情は、徐々に「呆れ」から「怒り」へと変わっていく。
橘先輩は「自分のせいでアタシが周りから白い目で見られるのが嫌」と言った。つまり、アタシが好奇の目に晒されることに対して、「責任を感じるのが嫌」ということだろう。
なんてワガママな人なんだ。
こんなことなら、「君のことが嫌い」と言われたほうがまだ納得できる。
こんな理由、あまりにも無責任だ。
「何で、先輩ばっかりワガママを通そうとするんですか!?それだったら、アタシだって、先輩と会えなくなるなんて耐えられないですよ!」
アタシは怒りの感情を橘先輩にぶつける。
すると、橘先輩は顔を上げ、涙ぐみながらアタシを見つめた。
「先輩がアタシのことを嫌いだって言うなら、アタシだって諦められますよ!?でも、そうじゃないなら……、アタシは先輩を諦められません!諦めてたまるもんか!」
アタシは、いつの間にかボロボロと涙を零していた。
「ちゃんと責任を取ってくださいよ!あなたが何度もアタシを誘うから……、アタシと会ってくれるから……、アタシの頭はあなたでいっぱいになったんです!アタシは『好きだ』って言ったのに、先輩は『好き』か『嫌い』かを言わずにアタシを遠ざけるつもりなんですか!?そんなの、無責任すぎますよ!」
口から出る言葉も、目から溢れる涙も止まらない。
「アタシはちゃんと責任を取りに来ました。何度も、何度も、あなたのことを求めた責任を……。先輩のことが好きだって、ちゃんと自分の気持ちに向き合いました。ただの性欲じゃない……。先輩のことが好きだから、あなたに会いたいから、アタシは何度も誘いに応じたんです。そして、アタシのせいで先輩が周りから非難されている現状の責任も、ちゃんと取るつもりです。だから、先輩もちゃんと自分の責任と向き合ってください」
そして、橘先輩の目からも涙が零れ始める。
無責任だ。橘先輩も、以前までのアタシも――。
アタシはずっと「橘先輩に迷惑を掛けたくない」と都合の良い言い訳をして、自分の気持ちに向き合おうとしなかった。今の橘先輩と同じように――。
アタシは橘先輩の気持ちが痛いほど分かる。アタシも、アタシのせいで橘先輩が陰口を叩かれている様子を見るのが辛かった。責任を負うのが怖かった。先輩を守れる自信がなかった。だから、あの時のアタシは自分の気持ちに向き合えなかったのだ。
だけど、だからこそ、アタシは許せない。橘先輩のことも、アタシ自身のことも――。
炎天下の中、校舎内だけでなく、模擬店が立ち並ぶ外も探し回り、アタシはもうすっかりバテてしまった。
とりあえず、水分補給のために捜索は一時中断することにする。
校舎内や正面玄関近くの自動販売機は、おそらく人だかりができていると思うので、アタシは裏庭の自動販売機へと向かうことにした。
フラフラとした足取りで裏庭へ向かうと、アタシの読み通り、人影が少ない。
アタシはそのまま自動販売機の元へ歩く。すると――。
「――橘先輩?」
アタシはそこで、200mLのペットボトルを持った橘先輩と鉢合わせた。
その瞬間、心臓が「ドクン」と大きく鼓動する。
「あっ――」
アタシと目が合った橘先輩は、焦ったような顔をすると、無言でアタシの横を通り過ぎようとする。
「待ってくださいよ!」
アタシは咄嗟に、橘先輩の手を掴んで引き留める。
「アタシ、昨日、『話したいことがある』ってメッセージ送りましたよね?」
アタシは質問するが、橘先輩は顔を背けて口を閉ざす。
「どうして無視するんですか?アタシのこと、……口も利きたくないくらい嫌いなんですか?」
恐る恐る尋ねるが、橘先輩は固まったまま、うんともすんとも返事をしない。
顔が見えないから、先輩がどんな表情をしているかも分からない。しかし、掴んでいる右手が一瞬ビクッと震えたことだけは分かった。
アタシは直感で「この手を離してはいけない」と思った。今この手を離したら、アタシはもう2度と橘先輩に会えないような気がした。
言うなら、今しかない。
「……何も答えてくれないなら、このまま勝手に話しますね」
アタシは焦る気持ちを抑えきれず、強引に本題へ入る。
「アタシは、橘先輩のことが好きです」
ハッキリとそう言い放つと、橘先輩は初めて振り向いてくれた。
橘先輩は無意識で振り向いたのか、「しまった」という顔をする。そして、戸惑ったように目を泳がせ始めた。
「先輩が好きです。だから、アタシと――」
「ダメだよ……」
すると、橘先輩は弱々しい声でアタシの言葉を遮った。
「どうしてですか?アタシのことが嫌いなんですか?だったら、そう言って――」
「違う!」
橘先輩は声を上げる。そして、泣きそうな顔になりながら、顔を俯かせる。
「違うよ……。君が嫌いなわけじゃない。僕は……、君にふさわしくないから……。僕みたいな淫売と一緒に居たら……、君まで白い目で見られる……。だから、もう君と一緒に居られない……」
橘先輩は涙声になりながら、必死に言葉を紡ぐ。
「何ですか、それ……」
アタシは「呆れ」に近い感情が沸き上がった。
橘先輩は、アタシのことを気にして、アタシを無視していたってこと?
「そんなの、アタシは気にしませんよ。誰に何を言われようとヘッチャラです。先輩がアタシに気を遣う必要なんて――」
「違う!そうじゃない!僕が嫌なんだよ!僕のせいで君が周りから白い目で見られている様子を見るのが、僕は耐えられないんだ!」
橘先輩は駄々をこねるように言い放つ。
「……は?」
橘先輩の言葉を聞いた瞬間、あまりの衝撃にアタシはしばらくの間呆然とした。
「な、何なんですか……。そんな、ワガママ……」
アタシの感情は、徐々に「呆れ」から「怒り」へと変わっていく。
橘先輩は「自分のせいでアタシが周りから白い目で見られるのが嫌」と言った。つまり、アタシが好奇の目に晒されることに対して、「責任を感じるのが嫌」ということだろう。
なんてワガママな人なんだ。
こんなことなら、「君のことが嫌い」と言われたほうがまだ納得できる。
こんな理由、あまりにも無責任だ。
「何で、先輩ばっかりワガママを通そうとするんですか!?それだったら、アタシだって、先輩と会えなくなるなんて耐えられないですよ!」
アタシは怒りの感情を橘先輩にぶつける。
すると、橘先輩は顔を上げ、涙ぐみながらアタシを見つめた。
「先輩がアタシのことを嫌いだって言うなら、アタシだって諦められますよ!?でも、そうじゃないなら……、アタシは先輩を諦められません!諦めてたまるもんか!」
アタシは、いつの間にかボロボロと涙を零していた。
「ちゃんと責任を取ってくださいよ!あなたが何度もアタシを誘うから……、アタシと会ってくれるから……、アタシの頭はあなたでいっぱいになったんです!アタシは『好きだ』って言ったのに、先輩は『好き』か『嫌い』かを言わずにアタシを遠ざけるつもりなんですか!?そんなの、無責任すぎますよ!」
口から出る言葉も、目から溢れる涙も止まらない。
「アタシはちゃんと責任を取りに来ました。何度も、何度も、あなたのことを求めた責任を……。先輩のことが好きだって、ちゃんと自分の気持ちに向き合いました。ただの性欲じゃない……。先輩のことが好きだから、あなたに会いたいから、アタシは何度も誘いに応じたんです。そして、アタシのせいで先輩が周りから非難されている現状の責任も、ちゃんと取るつもりです。だから、先輩もちゃんと自分の責任と向き合ってください」
そして、橘先輩の目からも涙が零れ始める。
無責任だ。橘先輩も、以前までのアタシも――。
アタシはずっと「橘先輩に迷惑を掛けたくない」と都合の良い言い訳をして、自分の気持ちに向き合おうとしなかった。今の橘先輩と同じように――。
アタシは橘先輩の気持ちが痛いほど分かる。アタシも、アタシのせいで橘先輩が陰口を叩かれている様子を見るのが辛かった。責任を負うのが怖かった。先輩を守れる自信がなかった。だから、あの時のアタシは自分の気持ちに向き合えなかったのだ。
だけど、だからこそ、アタシは許せない。橘先輩のことも、アタシ自身のことも――。