あなたが運命の番ですか?
「あっ……」
 千尋くんのアパートの前まで辿り着くと、アタシたちは見覚えのある派手な格好の女性と鉢合わせた。
「あら、おかえりなさい。奇遇ね」
 それは、千尋くんの母親だった。
 母親は千尋くんにニタァと不気味な笑みを向けた後、アタシのほうを見る。

「お友達?」
 母親はアタシを見ながら、意味深な笑みを浮かべる。すると、その場にピリッとした空気が流れた。
 うわ、どうしよう。なんか気まずいなぁ。
 
「恋人」
「えっ?」
 アタシは突然千尋くんの口から出た言葉に驚いて、彼のほうを見た。
 すると、千尋くんは真剣な眼差しで、自身の母親を見ている。
 アタシは再度母親のほうに視線を戻すと、彼女は驚いたように目を丸くさせていた。

「彼女は、僕の恋人だよ、母さん。婚約だってしてるんだ」
 真剣な千尋くんの言葉に、母親は言葉を失った様子だ。
 その数秒後、母親は驚いた顔から、スンと真顔に戻った。

「そう……。良かったわね」
 母親はそれだけ言い残すと、アパートの外階段を上り、自身の部屋へ入った。

「ごめんね、なんか……。気まずかったでしょ」
 千尋くんは苦笑いをする。
「いや……、でも、なんか……。お母さん、ホッとしたような顔をしてたね」
「良かったわね」と言う母親の横顔が、アタシにはどこか安堵しているように見えた。
「だと良いんだけどね」
 千尋くんは口をへの字に曲げる。

「送ってくれてありがとうね。それじゃあ……、またね」
「うん、また」
 アタシたちは別れの挨拶をしてから、名残惜しさを感じながら繋いでいた手を離した。
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