あなたが運命の番ですか?

真琴と千尋☆

 卒業式の3日後、アタシは1人で夜の歓楽街を歩いている。
 朱音ちゃんから送られてきた朱音ちゃんと寿々ちゃんのツーショット写真を見ながら、「アタシも卒業式に出たかったなぁ」と呟いた。
 
 アタシはこの数週間の間、ドラマの撮影の関係で北海道にいた。そのため、卒業式に参加できなかったのだ。
 今日の夕方、飛行機でこっちに戻ってきた後、アタシは学校の職員室で卒業証書を受け取った。
 アタシは2年生の秋頃から仕事が忙しくなり、出席日数が足りなくなり始めた。しかし、先生たちがそれを補講や課題などで補ってくれたおかげで、無事に卒業できたのだ。先生たちには、感謝してもしきれない。
 
 千尋くんにも事前に、しばらくの間北海道へ行くと告げている。
 しかし、そのことを告げた時の千尋くんは、あからさまに拗ねていた。
 それもそうだ。「アタシが高校を卒業したら、番になろう」と約束したのに、こっちの都合で3日も延期してしまったのだから――。

 アタシは千尋くんが勤めているコンカフェがあるビルの下で、彼のことを待つ。
 しかし、千尋くんの退勤時間から30分以上経っても、彼は一向にビルから出てくる気配がない。
 どうしたんだろう?
 アタシは心配になって、ビルの中へ入り、エレベーターでコンカフェのある4階へ向かった。

「お帰りなさいませ♡お嬢様♡」
 店内に入ると、黒とピンクのフリフリの衣装を身に纏い、猫耳をつけたベータ女性が出迎えてくれた。
「お、おぉ……」
 アタシは、彼女の猫撫で声とぶりっ子的な仕草に圧倒される。

「すみません、お客さんじゃないんです……。えっと、その……、橘千尋さんの知り合いで……」
 アタシはコンカフェ嬢に、自分が「星宮真琴」であることがバレないように、顔を伏せながら聞く。
 帽子と伊達眼鏡をかけているから、大丈夫だと思いたいけど、バレると面倒だ。

「たちばな――、あっ!『マコトくん』のことですか?」
「あ……、たぶん、そうです」
 あの人、何でアタシの名前を源氏名にしてるんだ?

「ごめんなさーい。マコトくん、今、店長に怒られてて……。もう少ししたら、裏口から出てくると思いますよぉ」
「あ、そうですか……。ありがとうございます」
 アタシはコンカフェ嬢に頭を下げると、店を後にした。
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