あなたが運命の番ですか?
店を出た後、再びビルの外で待っていると、ようやく千尋くんが出てきた。
「遅ーい!!!」
千尋くんはアタシの顔を見るなり、開口一番に悪態をついた。
「えぇっ!?アタシ、千尋くんが出てくるまで、ずっと待ってたのに……」
「前園くんたちは、もうとっくに番になって、入籍までしてるんだけど!?」
「あっ……、その件は、ほんとすみませんでした……」
アタシは肩をすぼめながら謝罪した。
「千尋くん、もしかして、またお客さんとトラブルになったの?」
「僕は悪くないよ。キモいオッサンが僕のお尻を触ってきたから、回し蹴りしただけだよ」
千尋くんは、腑に落ちてない様子でむくれる。
千尋くんは高校卒業後、コンカフェで働くようになった。しかし、たびたび客とトラブルを起こし、何度もクビになっている。
勤務中の千尋くんの服装は、他のコンカフェ嬢と同じである。つまり、女装姿だ。
それに加えて、珍しいオメガ男性ということもあって変に目立つからなのか、千尋くんは客からよくセクハラを受けるらしい。トラブルの原因は、大体それだ。
アタシも正直、悪いのは千尋くんでなく、セクハラをする客のほうだと思う。
「大変だねぇ」
「ほんとだよ。まあ、どうせ今日で辞める予定だったから良いんだけどさ」
アタシたちは横に並んで、歓楽街を歩く。
「そう言えば、さっきお店の人に聞いたんだけど、千尋くんの源氏名、『マコト』ってほんと?」
「うん、ほんとだよ」
「え、な、なんで?」
「『匂わせ』だけど?」
あっけらかんと答える千尋くんに、アタシは思わず「うわぁ」と漏らした。
すると、千尋くんはアタシの腕にしがみついてきた。
「僕は真琴のでしょ?僕のお尻を触っていいのも、真琴だけだし……」
千尋くんはアタシの腕をギュッと抱きしめながら、上目遣いで不敵な笑みを浮かべる。
「はいはい、千尋くんはアタシだけの王子様ですよ」
アタシは呆れながら笑った。
「とりあえず、駅前でタクシーを拾って、マンションに――うわぁ!?」
アタシの言葉を遮るように、千尋くんはアタシの腕をグイッと引っ張る。
「ここ、入ろ」
千尋くんが指差す先は、ラブホテルだった。
「えっ!?いやいや、わざわざホテルに入らなくても、マンションで――」
半月前、アタシたちはこれから2人で暮らすためのマンションを借りた。
マンションには既に一通りの家具と家電を揃えており、明日各々の実家から荷物を運んで引っ越しは完了する予定だ。
アタシは、その新居で千尋くんと番になるつもりだった。しかし――。
「やだ、待てない」
千尋くんはムッとした顔で言い放つ。
「待てないって……。タクシーに乗れば、20分くらいで着く――」
「僕は1年も待ったんだよ?あと3日も!」
千尋くんは眉間に皺を寄せる。
「僕、ずっと不安だったんだよ?僕が待っている間に、真琴に飽きられたら……、心変わりされたらどうしようって……。真琴は芸能人で……、真琴の周りには可愛い女の子やカッコいい男の子がいっぱいいるから……」
千尋くんは唇を噛みしめながら俯く。
「そんな……、アタシ、心変わりなんて絶対しないのに……」
千尋くんは相変わらず、自分に自信が持てないようだ。
アタシが「愛している」と口にすれば、その瞬間だけは千尋くんの心は晴れる。しかし、時間が経てば、また元に戻ってしまう。
「手のかかる人だな」と思うけど、その「手のかかる面」も含めて、アタシは千尋くんが愛おしい。
「うん、分かった。じゃあ、ここでシようか」
「遅ーい!!!」
千尋くんはアタシの顔を見るなり、開口一番に悪態をついた。
「えぇっ!?アタシ、千尋くんが出てくるまで、ずっと待ってたのに……」
「前園くんたちは、もうとっくに番になって、入籍までしてるんだけど!?」
「あっ……、その件は、ほんとすみませんでした……」
アタシは肩をすぼめながら謝罪した。
「千尋くん、もしかして、またお客さんとトラブルになったの?」
「僕は悪くないよ。キモいオッサンが僕のお尻を触ってきたから、回し蹴りしただけだよ」
千尋くんは、腑に落ちてない様子でむくれる。
千尋くんは高校卒業後、コンカフェで働くようになった。しかし、たびたび客とトラブルを起こし、何度もクビになっている。
勤務中の千尋くんの服装は、他のコンカフェ嬢と同じである。つまり、女装姿だ。
それに加えて、珍しいオメガ男性ということもあって変に目立つからなのか、千尋くんは客からよくセクハラを受けるらしい。トラブルの原因は、大体それだ。
アタシも正直、悪いのは千尋くんでなく、セクハラをする客のほうだと思う。
「大変だねぇ」
「ほんとだよ。まあ、どうせ今日で辞める予定だったから良いんだけどさ」
アタシたちは横に並んで、歓楽街を歩く。
「そう言えば、さっきお店の人に聞いたんだけど、千尋くんの源氏名、『マコト』ってほんと?」
「うん、ほんとだよ」
「え、な、なんで?」
「『匂わせ』だけど?」
あっけらかんと答える千尋くんに、アタシは思わず「うわぁ」と漏らした。
すると、千尋くんはアタシの腕にしがみついてきた。
「僕は真琴のでしょ?僕のお尻を触っていいのも、真琴だけだし……」
千尋くんはアタシの腕をギュッと抱きしめながら、上目遣いで不敵な笑みを浮かべる。
「はいはい、千尋くんはアタシだけの王子様ですよ」
アタシは呆れながら笑った。
「とりあえず、駅前でタクシーを拾って、マンションに――うわぁ!?」
アタシの言葉を遮るように、千尋くんはアタシの腕をグイッと引っ張る。
「ここ、入ろ」
千尋くんが指差す先は、ラブホテルだった。
「えっ!?いやいや、わざわざホテルに入らなくても、マンションで――」
半月前、アタシたちはこれから2人で暮らすためのマンションを借りた。
マンションには既に一通りの家具と家電を揃えており、明日各々の実家から荷物を運んで引っ越しは完了する予定だ。
アタシは、その新居で千尋くんと番になるつもりだった。しかし――。
「やだ、待てない」
千尋くんはムッとした顔で言い放つ。
「待てないって……。タクシーに乗れば、20分くらいで着く――」
「僕は1年も待ったんだよ?あと3日も!」
千尋くんは眉間に皺を寄せる。
「僕、ずっと不安だったんだよ?僕が待っている間に、真琴に飽きられたら……、心変わりされたらどうしようって……。真琴は芸能人で……、真琴の周りには可愛い女の子やカッコいい男の子がいっぱいいるから……」
千尋くんは唇を噛みしめながら俯く。
「そんな……、アタシ、心変わりなんて絶対しないのに……」
千尋くんは相変わらず、自分に自信が持てないようだ。
アタシが「愛している」と口にすれば、その瞬間だけは千尋くんの心は晴れる。しかし、時間が経てば、また元に戻ってしまう。
「手のかかる人だな」と思うけど、その「手のかかる面」も含めて、アタシは千尋くんが愛おしい。
「うん、分かった。じゃあ、ここでシようか」