あなたが運命の番ですか?
「腰、立たないんですけど?」
 千尋くんはうつ伏せの状態で、ムスッとした顔でアタシを睨みつける。
 心なしか、声もガラガラだ。

「すみません、調子に乗りました……」
 アタシは千尋くんの腰を(さす)りながら、肩をすぼめる。
 
 あの後、千尋くんは気を失ってしまった。
 ベッドの上でグッタリとしている千尋くんを目の当たりにして、アタシはようやく正気を取り戻した。
 アタシは贖罪のつもりで、気を失っている千尋くんの身体を拭いたり、事後処理に勤しんだ。
 そして、程なくして千尋くんは目を覚まし、「バカ」とアタシを罵り、今に至る。

「知ーらない」
 千尋くんはプイッとそっぽを向く。
 すると、千尋くんの黒い毛先の間から、赤い歯型が見えた。

「うなじ、痛くない?」
「んー?ちょっと、ジンジンするかな?」
「そっか……。じゃあ、帰りに薬局でガーゼか何か買って帰ろうか」
「……うん」

 千尋くんは枕を抱きしめながら、再度こちらに顔を向ける。
「ねぇ、真琴。僕たち、番になれたんだよね?」
 千尋くんは不安げな表情で、アタシを見上げた。
「うん、なれたんだよ」
 アタシはそんな千尋くんの頭を優しく撫でる。すると、千尋くんの表情が少し解れた。

「あのさ、真琴。僕のリュック、持ってきてくれないかな?僕は今、誰かさんのせいで起き上がれないからさ」
 千尋くんは、わざとらしい口調で言い放つ。
「はいはい、分かりましたよ」
 アタシは立ち上がって、ソファの上に置かれている千尋くんのリュックを、彼の元へ運んだ。

 千尋くんはリュックを受け取ると、「いてて……」と顔をしかめながら、重い身体を起こす。
 アタシは咄嗟に、千尋くんが倒れてしまわないように、彼の背中を支えた。
 千尋くんは「ありがと」と呟くと、リュックの中をゴソゴソと漁り始めた。

「はい、これ」
「えっ?」
 千尋くんは、リュックの中から手の平サイズの小さな箱をアタシに差し出す。
 その箱は、綺麗にリボンでラッピングされていた。

「卒業祝いだよ」
 アタシは千尋くんからプレゼントを受け取る。
 アタシは予想外の贈り物に、驚きと感激で言葉を失った。
 千尋くんにプレゼントを貰うなんて、初めての出来事だ。

「……開けて、いい?」
 アタシがそう尋ねると、千尋くんはコクッと頷いた。

 アタシはリボンを解いて、箱を開ける。
 すると、そこには三日月形のシルバーのネックレスが入っていた。

「……こういう時さ、ダイヤモンドが付いてるやつとかプレゼント出来たらカッコいいんだろうけど……、僕の給料じゃ、そんな高価な物は買えなかった……。ごめんね」
 千尋くんは自虐的に笑う。
 それに対して、アタシは首を横に振った。

「ううん、千尋くんがアタシのために選んでくれたってだけで、アタシは十分嬉しいよ。ありがとう」
 アタシがそう伝えると、千尋くんは顔を赤くして照れ臭そうに笑った。

 アタシは早速、ネックレスを着けてみた。
「どう?似合うかな?」
「うん、よく似合ってる。やっぱり、真琴は綺麗だね……」
 千尋くんは、うっとりとした表情でアタシの目を見つめる。
 アタシは千尋くんに「綺麗」と言われて、思わずドキッとした。

 すると、千尋くんはアタシに抱き着いてきた。
 アタシの身体に、千尋くんのドキドキという鼓動の音が伝わってくる。

「僕と番になってくれて、ありがとう、真琴」
 千尋くんの言葉に、アタシの胸が熱くなる。
 そんな千尋くんが愛おしくて、アタシはギュッと彼を抱きしめた。

「こっちこそ、アタシと番になってくれて、ありがとうね。千尋くん」
 アタシたちはそのまま、しばらくの間、互いの身体を抱きしめ合っていた。
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