あなたが運命の番ですか?
 17時過ぎに作業が終わり、私たちは部室へ戻った。
 部室の隅にはカーテンで仕切られた簡易更衣室があり、私と東部長はいつもそこで着替えている。
 制服に着替えるため、カーテンを開けようとした時、突然めまいがした。
 熱が上がってきたのかな?
 そんなことを考えていると、突然全身の力がスゥッと抜けて、私はドサッと床に倒れた。

「春川さん!?」
 遠くで橘先輩の声が聞こえる。

 起き上がらなきゃ……。頭ではそう思っているのに、身体に全く力が入らない。
 熱い。クラクラする――。

「大丈夫?春川さん」
 橘先輩はしゃがみ込んで、心配そうに私の顔を覗き込む。
 橘先輩と目が合った瞬間、私は下腹部が疼いた。

「ヒートかな……?抑制剤は持ってる?」
「ぅ……、あっ……」
 私は太ももを擦り合わせながら、喉から声を漏らす。
 身体がムズムズして、上手く言葉が発せられない。
 橘先輩が目の前にいるというのに、私は下腹部に手が伸びそうになる。

 どうしよう。
 もどかしい。
 強い刺激が欲しい。
 触れたい。
 触れられたい。
 ()()()()()()()――。

「ちょっと待って、川田先生に電話するから……」
 橘先輩が立ち上がろうとした瞬間、私は咄嗟にその右腕を掴んだ。
 橘先輩は目を丸くさせて、私を凝視する。
 
 そんな先輩の右手を、私は無意識のうちに自身の下腹部へと導く。
 そして、彼の手をズボンの上から私の股に押し当てた。
 その瞬間、身体に軽い電流が走る。

「あッ――」
 私は思わず、はしたない声を漏らす。
 その瞬間、困惑した様子で硬直している橘先輩と目が合い、私はハッとした。
 
「ご、ごめんなさ――」
 ダメ、こんなことしたら……。橘先輩に無理やり身体を触らせるなんて……。
 私は少し冷静さを取り戻し、先輩の手を離そうとする。
 すると、橘先輩は突然布越しの私の敏感な部分に、軽く指を押し込んできた。
 先ほどよりも強い電流が身体を駆け巡り、私は身体を仰け反らせる。
「あっ、んぅ……」

 こんなことしちゃダメなのに……。でも、橘先輩にもっと触れてほしい……。
 もっと強く触れてほしい。
 もっと強く触れて、この疼きから解放してほしい。
 
 そう思いながら橘先輩の顔を見ると、先輩は少し熱を帯びた表情をしていた。
 しかし、それはすぐに悲しそうな表情へと変わる。
 そして、橘先輩は右手を無理やり引っ込めた。

「落ち着いて」
 橘先輩は優しく諭す。
「川田先生を呼ぶから、それまで辛抱して。とりあえず、僕の抑制剤をあげるね」
 私が軽く頷くと、橘先輩は自身のカバンから抑制剤を取り出して、それを飲ませてくれた。
 抑制剤を飲むと、症状は少しずつ落ち着いていく。

 その後、橘先輩は川田先生を呼んでくれた。そして、私が歩けるようになると、川田先生と共に保健室へ向かった。
 保健室でしばらく休んでいると、お母さんが迎えに来てくれた。
 お母さんは血相を変えて軽くパニック状態になっていたが、川田先生は「今は症状が落ち着いているので大丈夫ですよ」と言ってお母さんを(なだ)めた。
 そして、私はお母さんと共に車で帰宅した。
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