あなたが運命の番ですか?
アタシたちは、稽古している部長たちのほうを再度見やる。しかし、まだ話しかけられる様子ではない。
他校の演劇部がどんな感じなのか知らないが、高校の部活でここまで熱の入った演技指導を行う学校が他にあるのだろうか。
「宝月の演劇部って、レベル高いですよね?アタシ、去年の文化祭で演劇部の公演を観たんですけど、クオリティ高すぎてびっくりしましたよ」
「まあ、学園の中でも伝統のある部だからね。大会に出たら、色んな部門で金賞を獲るし……。星宮さん、文化祭を観に来てたんだね」
「はい。あの舞台――『猪三郎物語』を観て、アタシは演劇部に入ろうって思ったんです」
「猪三郎物語」というのは、江戸時代に実在した侍・折笠猪三郎の伝説を基にした舞台である。
猪三郎とは、日本最古のアルファ男性という噂のある侍だ。身長は6尺(約180cm)を超え、熊を素手で撃退したという言い伝えがあるほどの怪力だったらしい。
そんな猪三郎が、人気の花魁・此花太夫と恋に落ちるというのがこの「猪三郎物語」の基となった伝説の概要だ。
此花太夫は日本最古のオメガ女性と言われており、3ヶ月に1度ヒートのように身体の火照る時期があったらしい。
此花太夫には数多くの身請け話があったそうだが、大判小判をいくら積まれようと一切靡かなかったそうだ。
しかし、そんな此花太夫も猪三郎に出会うと一目で恋に落ちた。それは猪三郎も同様で、彼は全財産を投げ打って此花太夫を身請けした。
この猪三郎と此花太夫の実話を基に、彼らが日本最古のアルファとオメガだったという設定で、赤穂事件を基にした「忠臣蔵」のように、いくつも小説や映画などの創作物が作られている。
その中の1つが宝月学園演劇部の「猪三郎物語」で、此花太夫を花魁から茶屋娘に設定を変えて、毎年文化祭で公演しているこの学園の名物らしい。
「猪三郎と此花のラブロマンスとして描かれやすい『猪三郎伝説』を、猪三郎と小十郎の友情物語にアレンジした脚本には舌を巻きました。脚本だけでなく、舞台セットから演出まで凝っていて、役者さんたちの演技も素晴らしくて……。特に、猪三郎役の人の演技は別格で、小十郎との決闘のシーンなんて、すごい迫力で……」
天津小十郎。――彼も実在の人物で、猪三郎の幼馴染で親友、そして恋敵だった侍だ。
猪三郎と小十郎は此花太夫を巡って決闘し、それに敗れた小十郎が命を落としたという伝説が残っている。
宝月学園演劇部の「猪三郎物語」では、この猪三郎と小十郎の友情と決別に焦点を当てた脚本となっており、猪三郎と小十郎のダブル主演だ。
宝月学園の「猪三郎物語」は、役者の演技力はもちろん、脚本や演出なども全て高クオリティで、アタシは思わず脱帽した。
そんな中でも、特に印象的だったのは猪三郎役の部員の演技力だ。
普段の武道を重んじる高潔さと、此花の前ではたどたどしくなってしまう一面、そして親友との決別で葛藤する姿――。実際の猪三郎はこんな感じの侍だったのではないか、という説得力が彼の演技にはあった。
体格的におそらくアルファ男子だったと思うのだが、今の演劇部にそれらしい人はいない。
「アタシ、あの猪三郎役の人と話してみたかったんですけど、あの人はもう卒業しちゃったんですか?」
「ん゛んッ――!?」
すると、前園先輩は突然咳き込み始めた。
「だっ、大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫……。ちょっと、むせただけ……」
他校の演劇部がどんな感じなのか知らないが、高校の部活でここまで熱の入った演技指導を行う学校が他にあるのだろうか。
「宝月の演劇部って、レベル高いですよね?アタシ、去年の文化祭で演劇部の公演を観たんですけど、クオリティ高すぎてびっくりしましたよ」
「まあ、学園の中でも伝統のある部だからね。大会に出たら、色んな部門で金賞を獲るし……。星宮さん、文化祭を観に来てたんだね」
「はい。あの舞台――『猪三郎物語』を観て、アタシは演劇部に入ろうって思ったんです」
「猪三郎物語」というのは、江戸時代に実在した侍・折笠猪三郎の伝説を基にした舞台である。
猪三郎とは、日本最古のアルファ男性という噂のある侍だ。身長は6尺(約180cm)を超え、熊を素手で撃退したという言い伝えがあるほどの怪力だったらしい。
そんな猪三郎が、人気の花魁・此花太夫と恋に落ちるというのがこの「猪三郎物語」の基となった伝説の概要だ。
此花太夫は日本最古のオメガ女性と言われており、3ヶ月に1度ヒートのように身体の火照る時期があったらしい。
此花太夫には数多くの身請け話があったそうだが、大判小判をいくら積まれようと一切靡かなかったそうだ。
しかし、そんな此花太夫も猪三郎に出会うと一目で恋に落ちた。それは猪三郎も同様で、彼は全財産を投げ打って此花太夫を身請けした。
この猪三郎と此花太夫の実話を基に、彼らが日本最古のアルファとオメガだったという設定で、赤穂事件を基にした「忠臣蔵」のように、いくつも小説や映画などの創作物が作られている。
その中の1つが宝月学園演劇部の「猪三郎物語」で、此花太夫を花魁から茶屋娘に設定を変えて、毎年文化祭で公演しているこの学園の名物らしい。
「猪三郎と此花のラブロマンスとして描かれやすい『猪三郎伝説』を、猪三郎と小十郎の友情物語にアレンジした脚本には舌を巻きました。脚本だけでなく、舞台セットから演出まで凝っていて、役者さんたちの演技も素晴らしくて……。特に、猪三郎役の人の演技は別格で、小十郎との決闘のシーンなんて、すごい迫力で……」
天津小十郎。――彼も実在の人物で、猪三郎の幼馴染で親友、そして恋敵だった侍だ。
猪三郎と小十郎は此花太夫を巡って決闘し、それに敗れた小十郎が命を落としたという伝説が残っている。
宝月学園演劇部の「猪三郎物語」では、この猪三郎と小十郎の友情と決別に焦点を当てた脚本となっており、猪三郎と小十郎のダブル主演だ。
宝月学園の「猪三郎物語」は、役者の演技力はもちろん、脚本や演出なども全て高クオリティで、アタシは思わず脱帽した。
そんな中でも、特に印象的だったのは猪三郎役の部員の演技力だ。
普段の武道を重んじる高潔さと、此花の前ではたどたどしくなってしまう一面、そして親友との決別で葛藤する姿――。実際の猪三郎はこんな感じの侍だったのではないか、という説得力が彼の演技にはあった。
体格的におそらくアルファ男子だったと思うのだが、今の演劇部にそれらしい人はいない。
「アタシ、あの猪三郎役の人と話してみたかったんですけど、あの人はもう卒業しちゃったんですか?」
「ん゛んッ――!?」
すると、前園先輩は突然咳き込み始めた。
「だっ、大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫……。ちょっと、むせただけ……」