あなたが運命の番ですか?

抗えない甘い香り☆

「急がなきゃ……」
 とある金曜日の放課後――。ホームルームが長引いてしまったので、アタシは小走りで部室へ向かっている。
 もう部活、始まってるよねぇ。
 
 アタシは部室棟へ辿り着くと、演劇部の部室がある地下へ向かうため、階段を降りようとする。
 その時、どこからか甘い香りが漂ってきていることに気づいて、思わず足を止めた。

 何だろう?頭がボーッとする。
 アタシはその香りに誘われるように、フラフラと廊下を歩く。
 そして、とある部室の前で立ち止まった。ここから香りが漏れてきているようだ。
 扉には、「園芸部」と書かれた紙が貼られている。

 アタシは頭がぼんやりとしたまま、扉を開ける。
 その瞬間、濃厚な甘ったるい香りが鼻孔を突き、雷が落ちたかのような衝撃が脳に走った。
「うっ――!?」
 アタシは反射的に鼻と口を手で覆って、匂いを吸い込まないようにする。
 頭がクラクラする、動悸が激しい、身体が熱い――。

 早くこの場を去らなければいけないと、頭では考えているのに身体が言うことを聞かない。
 アタシは部室の出入り口に留まり続け、両目は無意識のうちに()()を探している。
 そして、見つけた――。

 壁際に男子生徒が1人、力なく座り込んでいる。そして、アタシはその彼と目が合った。
 それは、この間裏庭で見かけた橘先輩だった。
 彼は、何かの錠剤とそれが入った小瓶を持っている。

 ドサッ――。
 頭がボーッとしていると、急に視界が変わった。

「あっ――」
 気が付くと、アタシは橘先輩を床に押し倒し、その上に覆い被さっていた。
 橘先輩の顔は上気していて目が潤んでおり、息遣いも荒い。
 そして、アタシの目に、橘先輩の黒いチョーカーが飛び込んできた。

 まさか、これって『ヒート』――?
 アタシはヒートのフェロモンに誘われて、橘先輩を押し倒してる?
 さっき橘先輩が持っていた錠剤って、抑制剤?
 先ほどまで抑制剤を持っていた橘先輩の両手を、アタシは掴んで床に押さえつけている。
 アタシは今、オメガを襲おうとしている?
 
「ご、ごめんなさい――」
 アタシは何とか理性を保ち、橘先輩の手を離して、上半身を起こそうとする。
「えっ――!?」
 すると、橘先輩はアタシのブレザーの襟を掴んでグイッと引っ張り、アタシは再び先輩の上に倒れ込んでしまう。
 すぐ目の前に、橘先輩の顔がある。
 アタシの口元に、橘先輩の艶めかしい息が掛かる。

「……いいよ?」
 橘先輩はアタシの首に両腕を回す。
「僕は、いいよ」
 橘先輩は、そう言って妖しく笑う。
 心臓がバクバクとうるさい。
「女の子()初めてだから緊張しちゃうな……」
 橘先輩はアタシの脚に、自身の脚を絡めてくる。
 この人は一体何を言ってるんだ?
「ねぇ――」
 ダメだ――。

「僕を助けて」
 橘先輩の唇が、アタシの唇と重なる。
 柔らかい。
 先輩は何度もアタシの唇を(ついば)み、自身の股をアタシの太ももに擦り付ける。
 もう、何もかもどうでもいい――。
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