あなたが運命の番ですか?
夜道は気を付けて
電車を降りて駅の改札を抜けると、辺りはすっかり暗くなっていた。
こんな暗い夜道を1人で歩くなんて、初めてだ。
私の家は、駅からさらに15分ほど歩いたところにある。
早く帰らなくちゃ……。
「ねぇねぇ、今帰り?」
駅から5分ほど歩いたところで、突然背後から声を掛けられ、私は驚いて立ち止まってしまった。
すると、2人組のガラの悪そうな20歳前後くらいのベータ男性たちが私の前に立ち塞がる。
えっ?何?
「君、オメガ?可愛いねぇ」
男たちはニヤニヤと笑いながら、私に詰め寄る。
「えっ、いや……」
私は恐怖を感じて、後退る。
「1人?だったら、今から俺たちと一緒に美味しい物でも、食べに行かない?」
どうしよう。嫌な予感がする。
どうにかしてこの2人から逃げたいが、防犯ブザーを鳴らして逃げても、この至近距離ではすぐに追いつかれてしまう。
その時、私はカバンの底の催涙スプレーの存在を思い出した。
私はこっそりカバンを探って催涙スプレーを取り出そうとした。しかし――。
「ねぇ、いいでしょ?」
そう言って、片方の男は私の両手を掴んだ。
「いやっ――」
その瞬間、私は恐怖心で心臓がドクンと跳ねた。
私は咄嗟に、掴まれた手を振り解こうとするが、ビクともしない。
「何もしないから、大丈夫だよ」
頭上から男たちの下卑た笑い声が聞こえてくる。
そして、もう片方の男は私の肩を掴み、私はそのまま男たちによってズルズルと引きずられる。
私は恐怖で声が出ず、涙がボロボロと零れた。
嫌だ、怖い……。
助けて、お母さん、お父さん……。誰か――。
私が絶望していると、私を連れ去ろうとしていた男たちの動きがピタッと止まった。
「ひっ――!?」
男たちが息を呑む声が聞こえて、私は顔を上げる。
すると、片方の男の背後に――、前園先輩の姿があった。
前園先輩は男の肩をガシッと掴み、背筋を伸ばして男たちを冷ややかな目で見下ろしている。
170cm前後くらいの男たちは、190cmを超える長身の前園先輩に怖気づいているようだ。
「その子……」
前園先輩が口を開くと、男たちは先輩を凝視しながら、再度「ひっ」という声を漏らす。
「俺の彼女なんですけど……」
前園先輩は低く唸るような声で、まるで脅すように言い放った。
「えっ、えっと……」
片方の男がしどろもどろになっていると、もう1人の男が「ヤバい、逃げるぞ」と言って、男たちは脱兎のごとくその場から逃げていった。
私はしばらくの間、呆然と立ち尽くしていた。
すると、前園先輩は腰を屈めて、呆然としている小さな私に視線を合わせてくる。
「大丈夫?」
前園先輩はズボンのポケットから水色のハンカチを取り出し、私に差し出す。
私は差し出されたハンカチを見た瞬間、自分が泣いていることを思い出した。
そして、前園先輩が現れたことで一瞬吹き飛んでいた恐怖心が蘇り、再び涙が溢れる。
「だ、大丈夫です……。すみません……、助けてくれて、ありがとうございます」
私はハンカチを受け取り、涙を拭う。
ハンカチは、シルクが混ざっているのか肌触りがとても良い。
さらに、ハンカチからは微かに甘い香りが漂っており、それを嗅ぐとなぜか恐怖心が和らいだ。
「……警察に通報する?」
前園先輩は優しい口調で、私の様子を窺うように尋ねる。
私は少し考えてから、首を横に振った。
「お、お母さんが心配するので……」
私は消え入りそうな声を絞り出す。
「お母さんが心配するから」というのは半分嘘だ。
本当は、警察に通報することで、私が連れ去られそうになったと知ったお母さんが、無理やり部活を辞めさせようとするのではないかと不安になったからだ。
すると、前園先輩は「分かった」と一言だけ答えた。
「家まで送るよ」
「えっ!?」
前園先輩からの突然の申し出に、私は面食らう。
「いや、わざわざそこまで……」
私は申し訳なさを感じながら、首を横に振る。
「でも、さっきの奴ら、まだこの辺にいるかもしれないし」
前園先輩にそう言われた途端、私は急に1人で帰るのが不安になった。
そして、私は自宅までわざわざ送ってもらうのは申し訳ないという気持ちよりも、さっきの人たちがまた絡んで来たらどうしよう、という気持ちのほうが勝った。
「じゃあ、お願いします……」
こんな暗い夜道を1人で歩くなんて、初めてだ。
私の家は、駅からさらに15分ほど歩いたところにある。
早く帰らなくちゃ……。
「ねぇねぇ、今帰り?」
駅から5分ほど歩いたところで、突然背後から声を掛けられ、私は驚いて立ち止まってしまった。
すると、2人組のガラの悪そうな20歳前後くらいのベータ男性たちが私の前に立ち塞がる。
えっ?何?
「君、オメガ?可愛いねぇ」
男たちはニヤニヤと笑いながら、私に詰め寄る。
「えっ、いや……」
私は恐怖を感じて、後退る。
「1人?だったら、今から俺たちと一緒に美味しい物でも、食べに行かない?」
どうしよう。嫌な予感がする。
どうにかしてこの2人から逃げたいが、防犯ブザーを鳴らして逃げても、この至近距離ではすぐに追いつかれてしまう。
その時、私はカバンの底の催涙スプレーの存在を思い出した。
私はこっそりカバンを探って催涙スプレーを取り出そうとした。しかし――。
「ねぇ、いいでしょ?」
そう言って、片方の男は私の両手を掴んだ。
「いやっ――」
その瞬間、私は恐怖心で心臓がドクンと跳ねた。
私は咄嗟に、掴まれた手を振り解こうとするが、ビクともしない。
「何もしないから、大丈夫だよ」
頭上から男たちの下卑た笑い声が聞こえてくる。
そして、もう片方の男は私の肩を掴み、私はそのまま男たちによってズルズルと引きずられる。
私は恐怖で声が出ず、涙がボロボロと零れた。
嫌だ、怖い……。
助けて、お母さん、お父さん……。誰か――。
私が絶望していると、私を連れ去ろうとしていた男たちの動きがピタッと止まった。
「ひっ――!?」
男たちが息を呑む声が聞こえて、私は顔を上げる。
すると、片方の男の背後に――、前園先輩の姿があった。
前園先輩は男の肩をガシッと掴み、背筋を伸ばして男たちを冷ややかな目で見下ろしている。
170cm前後くらいの男たちは、190cmを超える長身の前園先輩に怖気づいているようだ。
「その子……」
前園先輩が口を開くと、男たちは先輩を凝視しながら、再度「ひっ」という声を漏らす。
「俺の彼女なんですけど……」
前園先輩は低く唸るような声で、まるで脅すように言い放った。
「えっ、えっと……」
片方の男がしどろもどろになっていると、もう1人の男が「ヤバい、逃げるぞ」と言って、男たちは脱兎のごとくその場から逃げていった。
私はしばらくの間、呆然と立ち尽くしていた。
すると、前園先輩は腰を屈めて、呆然としている小さな私に視線を合わせてくる。
「大丈夫?」
前園先輩はズボンのポケットから水色のハンカチを取り出し、私に差し出す。
私は差し出されたハンカチを見た瞬間、自分が泣いていることを思い出した。
そして、前園先輩が現れたことで一瞬吹き飛んでいた恐怖心が蘇り、再び涙が溢れる。
「だ、大丈夫です……。すみません……、助けてくれて、ありがとうございます」
私はハンカチを受け取り、涙を拭う。
ハンカチは、シルクが混ざっているのか肌触りがとても良い。
さらに、ハンカチからは微かに甘い香りが漂っており、それを嗅ぐとなぜか恐怖心が和らいだ。
「……警察に通報する?」
前園先輩は優しい口調で、私の様子を窺うように尋ねる。
私は少し考えてから、首を横に振った。
「お、お母さんが心配するので……」
私は消え入りそうな声を絞り出す。
「お母さんが心配するから」というのは半分嘘だ。
本当は、警察に通報することで、私が連れ去られそうになったと知ったお母さんが、無理やり部活を辞めさせようとするのではないかと不安になったからだ。
すると、前園先輩は「分かった」と一言だけ答えた。
「家まで送るよ」
「えっ!?」
前園先輩からの突然の申し出に、私は面食らう。
「いや、わざわざそこまで……」
私は申し訳なさを感じながら、首を横に振る。
「でも、さっきの奴ら、まだこの辺にいるかもしれないし」
前園先輩にそう言われた途端、私は急に1人で帰るのが不安になった。
そして、私は自宅までわざわざ送ってもらうのは申し訳ないという気持ちよりも、さっきの人たちがまた絡んで来たらどうしよう、という気持ちのほうが勝った。
「じゃあ、お願いします……」